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第21話 幌馬車と姫様

 栗色の毛並みの良い馬に引かれた幌馬車に揺られ、俺たちは最初の目的地であるホロロン町に向かっている。御者台で手綱を引くのは俺の役目だ。馬と魔人の相性は最悪で、人間の俺にしか馬を操縦することができないのだ。


 俺のとなりには獣耳メイドのフォクスが足をぶらぶら揺らして周りの景色を見回している。今回の旅は彼女にとって初めての外出。何しろ生後1ヶ月未満の幼女なのだから。


 荷台にはアリシアと黒装束姿のカルバス、そしてもう1人の黒装束の魔人が大人しく乗っている。幌付の荷台とはいえ、ここは人間が支配する領域。むやみにその姿をさらすことは控えなければならない。


「ねえユーマ、次の目的地にはまだ着かないのかしら? このままでは日が暮れてしまうわ。アタシ、今夜こそちゃんとしたベッドで眠りたいの」


 アリシアが御者台に身を乗り出して話しかけてきた。ピンク色のドレスにシルバーの髪飾りとネックレスという、どこかの国のお姫様という感じの姿だ。まあ、魔王の娘だから仕方がないと言えばそれまでだけれど、お姫様とおんぼろ馬車の取り合わせはどうなんだろうか?


「この森を抜けると町が見えてくるはずなんだけど……そうだよな?」

「そうです、そうです。あと30分もすれば見えてくるはずなのです」


 大きな地図を広げて黒装束の魔人が教えてくれた。


「そう、それなら良いけれど……フォクス、そこの席アタシと替わりなさい!」

「い、いけませんお嬢ちゃま! そんなかっこうをにんげんに見られたら……」

「それはあなたが【偽装】の上級スキルを覚えなかったからでしょうぉぉぉ!」

「あわわわ……も、申し訳ありません――!!」


 アリシアはフォクスのこめかみを両手の拳でぐりぐりする。

 フォクスは手足をばたばたさせて涙目になっている。

 その直後にポワンと煙が立ち、フォクスの頭からフサフサの耳が飛び出した。


 魔王城の最後の一夜で【偽装】スキルを覚えたフォクスは、自身の獣人スタイルを人間に偽装することはできるようになったものの、他者をも偽装する上級スキルはまだ未習得なのだった。


「お嬢様、拙者達は頭の(つの)さえ隠せば人間と見た目は違ありません。ゆえに、こちらの帽子をお被りください」


 音もなくアリシアの背後に移動したカルバスが、麦わら帽子を差し出した。


 渋々それを頭に乗せたアリシアは、ぐずるフォクスと俺の間に強引に割り込んできた。2人がけの御者台はぎゅうぎゅう詰めになり、フォクスが端から落ちそうになるが、アリシアがさり気なく支えてやっている。


 メイド服姿の幼女にピンク色のドレス姿のお姫様、そして俺は白いシャツに茶色いチョッキ姿の典型的な農民スタイル。三者三様の組み合わせは違和感が半端ない。


「ねえユーマ、この帽子……アタシには似合っていないよね?」


 アリシアは麦わら帽子に手をかけて、真横にいる俺に尋ねてきた。俺はちらりと隣を向くと、彼女の顔が間近にあってすぐに馬の尻に視線を戻した。なんだか甘酸っぱいような香りがして、ドキリと心臓が高鳴る。腰と肩が密着していることに気付き、御者台の端っこに半身になって座り直した。


「ホロロン町に着いたら、新しい帽子を買えばいいさ。お金は持ってきているんだろう?」

「うん、そうする……」


 俺の動揺がアリシアにも伝わってしまったのか、ほんのり赤くなった顔で俯きながら答えた。


「あっ、お金は使い切れないくらい持ってきているから何でも手に入るわよ?」


 そして、ふと思い出したようにアリシアが凄いことを言ってきた。使い切れないぐらいのお金って……いくら持ってきたの?


「――ん!?」


 俺は手綱とブレーキを引いた。

 フォクスが前に転げ落ちそうになるのをアリシアがメイド服の首元をつかんで引き戻した。


「な、何事でござる?」


 荷台の黒装束の2人が身を乗りしだしてきた。

  

「人が……人が倒れているんだ」


 もうすぐ森を抜けるという地点の道路脇に、人間の子供が俯せに倒れていた。

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