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第19話 増えたベッド

 始めは皆に嘘をついていることを気にしていたアリシアも、次第に堂々とした振る舞いで皆に笑顔を振りまくようになっていった。そんな彼女の変わり様を見て俺は少し胸が痛む。でもこれも俺と皆の平和の為なのだと自分を納得させた。


 アリシアとの『婚姻の儀』も無事に終わり、一般の兵士や城内で働く魔人たちからの祝福の嵐が過ぎ去ったころにはすっかり暗くなっていた。俺たちは一先ず分かれてそれぞれの部屋に戻ることにしたのだが――


 先ほどのベッドしかなかったはずの殺風景な部屋に入ると、色とりどりの花が飾られ、アンティーク調の家具が所狭しと並べられていた。そして、ベッドが1台増えていた。


「な、何でベッドが2台に……?」


 すると背後から――


「ユーマ様とアリシアお嬢様の――愛の巣――でございますが?」

「ユーマちゃま、ごけっこんおめでとうござましゅです!」


 獣耳メイドのウォルフとフォクスが返答した。 


 通路からドタドタと足音が近づいてきて、ドアがバーンと開く。


「あぁぁぁ――ッ! やっばりぃぃぃ――!?」


 アリシアが部屋に飛び込んで来るなり騒ぎ立てる。


「アリシアお嬢様、この度はご結婚おめでとうございます」

「おめでとうございまちゅです!」


 アリシアの狼狽ぶりとは対照的な獣耳メイドの2人が深々と頭を下げる。


「ちょとあなたたち、どうしてアタシの部屋の家具が全部こっちに来ちゃっているわけ? こんな指示出した覚えはないんですけどぉぉぉー!?」


 アリシアはぶんぶん手を上下に振りながら抗議している。頬を赤く染めてはにかんだ様な表情に見えるが、これが彼女の怒り顔なんだろう。


「どうしてと言われましてもお二人は結婚なさったんですよね?」

「――うっ、ま、まあ……そう……なんだけどね?」


 アリシアは両手の指を絡ませてもじもじしている。

 そしてちらっと俺に視線を送ってきた。


「ならば、今夜は大切な『お初夜』でございますよ?」

「おしょーやでごぢゃいますです!」

「ふにゃ――ッ」


 アリシアは聞いたこともないような異音を発し、顔が破裂するのではと心配するほどに真っ赤になって固まった。

   

「私達魔族の未来のために立派なお世継ぎを産んでくださいね?」

「産んでくだちゃいませです!」


「ち、違うの! じつは――――うぷッ!?」


 アリシアが余計なことを言い始めたことを察知した俺は、慌てて背後から彼女の口を覆った。

 そして耳元で――


「この2人に俺らが偽装結婚であることを打ち明けても大丈夫なのか? もし長老会にバレたらすべての計画は台無しになるけれど……この2人は信用しても良いのだろうか?」


 するとアリシアは首を振った。

 危ないところだった。寸前のところで情報漏洩を阻止できたようだ。

 俺がホッと胸をなで下ろしていると――


「あらあら、ユーマ様ったら夜までお待ちになれないということでしょうか。せめて私どもが出て行くまでお待ちになってくださらないと……」

「お待ちくだちゃいですの!」

「…………えっ?」


 獣耳メイドの2人が僕らを見てニヤニヤ笑っている。


 何か誤解している? 確かに見ようによってはいわゆる若い男女が後ろから『だーれだ?』をしているようにも見えるかもしれないけど……俺が押さえているのは目ではなくて口だ。


 アリシアもそんな誤解を受けたことに腹が立ったのか、ぷるぷる震えだしたぞ?

 僕は危険を察して、すぐに手を離したのだが間に合わなかった――


 彼女はその場で斜め後ろにジャンプして、頭の角が俺のあごに命中!

 2歩離れた直後に、強烈な回し蹴りが俺の側頭部に命中!

 俺の体は吹っ飛んでアンティーク調の家具を押し倒していった。


「あわわっ、アタシの鏡台がぁぁぁ、チェストがぁぁぁー!」


 ふと我に返った様子のアリシアは、壊れた家具の破片を手でつなぎ合わせるような動作をしながら涙目になっているけど。彼女の中では、俺の序列は家具以下ということになっているらしい。



 *****


 おしゃれな白い丸テーブルに白い皿。その両脇にはナイフとフォークが並べられている。アリシアはすまし顔でアンティーク調の木の椅子に腰をかけ、俺はその対面に座った。


「本日は季節の野菜スープにビバビバのステーキでございます」


 獣耳メイドのウォルフとフォクスが食事をワゴンに乗せて入ってきた。

 まず、フォクスが『んー、よいしょ』とか言いながら皿の上にパンを乗せた。

 焦げ茶色の長細いパンは、木の実のような物が練り込まれていて良い香り。

 その間にウォルフが慣れた手つきで熱々のスープを深皿に取り分けた。

 最後に、金属製のドームカバーを被せられたメインディッシュがテーブルに乗せられた。


「では、どうぞお召し上がり下さい」


 ウォルフがアリシアの、フォクスが俺のドームカバーを外す。

 ふわっと湯気が立ち、厚切りのステーキが華やかにテーブルを飾った。


 ビバビバと言えば、この先の湖に生息するビーバー型の魔獣だ。昨日は散々俺の足に食らいついてきたけれど、今夜は俺が食べる側に回っている。正に弱肉強食の世界。それにしても……この二日間で本当に色んなことを経験したな……よく生き残ってこれたな。我ながら感心するよ。


 スープは野菜の出汁がよく利いていておいしい。さすがは魔族の王お抱えの料理番という感じだな。


 では、次にビバビバのステーキ。ナイフを入れると、少し筋があって硬い部分があるけれど、硬い肉は農民出身の俺にとっては返ってかみ応えがあって良いぐらいだ。茶色いソースをたっぷりつけて、まずは一口……


「……旨い!」


 思わず口から出た一言。

 うん、これは旨いぞ。噛めば噛むほど、ジューシーな肉汁が口の中に溢れて、辛めのソースと混じり合って絶妙なハーモニーを楽しめる。

 あの凶暴なビバビバが、こんなにも優しい味わいだったとは!


 俺が夢中でステーキをぱくついていると、ふと皆の視線が集まっていることに気付いた。


「……?」


 フォクスに関してはただニコニコと俺を見ていただけのようだが、ウォルフは驚いたような顔をしている。正面のアリシアに至っては、目を見開いて口を半開きにしたまま固まっていた。


「……ユーマ、ビバビバの肉が美味しいの?」

「もちろん、旨いけど……アリシアの口には合わないのか?」

「いいえ、ビバビバの肉はアタシの大好物よ……」

「そうか。俺たち好物が似ているのかな?」


 アリシアは口を半開きのまま再び固まった。

 そしてイスから立ち上がって、テーブルに両手をついた姿勢で――


「ユーマ、あなた本当に人間なのかしら?」


 突然そんなことを言い始めた。


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