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第17話 謎の式典

第二章までのシリアスな雰囲気から一転してラブコメ風パートが入ります。

好みに合う合わないがあるとは思いますが、物語の展開には不可欠なシーンなのでお付き合いください。

シリアスパート8割・ラブコメパート2割の配分で進んでいきます。

 薄ぼんやりとした意識の中で、アリシアの声が聞こえていた。

 そしてもう1人、これはどこかで聞き覚えのある声。

 その鈴の音のような澄んだ音色の声は……

 どこでかで聞いた声……


「――だからね、この子はただの人間じゃないと(われ)は思うのじゃ」


「ユーマがただの人間じゃないって、でもやっぱり人間なんでしょう?」


「それが不思議なのじゃ。確かに人間にも魔力を持つ者はいる。だが、この子の魔力は人間の魔力とも魔族のものとも異なる、別の次元に存在するのじゃ」


「別の次元……って何ですか?」


(われ)にも分からん!」


ルルシェ(・・・・)様が分からないことなんてこの世界にあるのですか?」


「あるある、あるぞ小娘。現にお前の考えていることが(われ)には分からん!」


「えっ、ど、どういうことでしょう?」


(われ)がようやく見つけたこの子を小娘、お前は手放すところであったのじゃぞっ! この子の意志に任せるなど言語道断。もしお前を見捨てて人間側に寝返っておったら終いじゃ! 魔族は滅び、我もこの世界から消えゆくところじゃったのだぞっ!」


 アリシアが誰かに叱られている。

 魔王の娘を叱りつけるなんてあの人は誰だろう?

 俺は薄く目を開ける。

 すると、目の前に黒い翼を生やしたコウモリ……

 いや、コウモリはしゃべらないし……

 あれ? あれは妖精かな……

 黒いコスチュームを着た手の平に乗るぐらいの小さな女の子が、アリシアと親しげにおしゃべりをしていた。


 俺が薄目を開けていることに気付いた妖精は「うひゃっ!」と声を上げる。

 そして、何を考えたか俺の顔に突進してきた。

 直後に顔面に無数の針のような物が突き刺さり激痛が走る。

 俺は顔を覆ってしばらくのたうち回った。


「ユーマ、だいじょーぶ?」


 ハリィネズミのハリィが枕の上から短い手をぱたぱたさせて声をかけてきた。


 ここは……


 改めて周りを見回すと、俺は魔王城の一室にいるらしい。石の壁に大きな柱時計がかかっている他は何も無いがらんとした部屋。その中心に置かれたベッドに俺は寝かされていたようだ。


 ベッドの傍らにはピンク色のドレスを着たアリシアが慌てた様子で立ちすくんでいた。


「アリシア……今、誰と話していたの?」


「えっ!? あ、あれぇー、可笑しなことを言うのね。ここにはアタシたちしかいないわよ?」


 目を逸らされた。

 ハリィを見下ろすと、まだ短い手をぱたぱたさせている。

 仕草が可愛いな。


「ユーマ殿、着替えをお持ちしましたぞ」


 ノックもなく執事服を着たバラチンが部屋に入ってきた。その手には黒いブーツ。そのすぐ後ろをメイド服姿の女の子が2人付いて来ていた。


 1人は長身で灰色の獣耳を生やした女性の魔人。見た目からすると18歳ぐらいで、ちょっと目付きが鋭い。先端が白いフサフサの尻尾が生えている。

 もう1人は薄茶色の大きな獣耳を生やした、12歳ぐらいの女の子。目がぱっちりと大きくて、フサフサの尻尾の先端が焦げ茶色である。


 2人の獣耳メイドはベッドの上に黒い服とマントのようなものを丁寧に置いた。それに対してバラチンは黒いブーツをベッド脇に無造作に置いた。ブーツはカタンと音を立てて石張りの床に倒れた。


「えっと……これは……?」


「着替えでございますな」


 バラチンはすまし顔で答えた。


「何のために着替えるのかな?」


「式典に出席していただきますゆえに――」


 そう言えば、アリシアも式典がどうのこうのと言ってバラチンと入れ違いに出て行ったな……


「ところでユーマ殿、先刻の戦いの勝ち名乗りはお見事でしたな。特に『1人残らず殲滅してやるぞぉぉぉ』の言葉には鳥肌が立ちましたぞ」


「あはは……そ、そう、かな?」


「しかし、剣を振り上げたままの姿勢で動かなくなったので変に思っていたら、そのままの格好で気を失っていたとは笑えますな。フハハハハ……」


 そうか……それであの後の記憶がないのか。バラチンの嫌味は今更気にはしないけれど、気絶した俺をアリシアが部屋まで運んでくれたんだな。また彼女に迷惑をかけてしまった。


 ベッドの上に置かれた服は、黒い生地に金色の刺繍やリボンを縫い込まれた、騎士団の人達の正装のような感じの厳かな雰囲気のある衣装だ。コートは表が黒で、内側は赤と青のチェック模様。これも重量感があって高級そうなものだ。


 これを俺が着るのか?

 そもそも何の式典が始まるというのだ?

 そんなことを考えていると―― 


「ユーキ殿は所詮は人間、しかも農民の子であるゆえに、そのような豪華な衣装をお召しになるのは初めてであることは重々承知しております。ご心配なく。この者達がお着替えを手伝いますので――」

 

 バラチンはふっと口の端をわずかに上げ、そのままの表情で部屋を出て行った。

 くそっ、いつか仕返ししてやる!


 バラチンが出て行ったドアを睨んでいる間に、長身の灰色獣耳の女の人が僕の背後に回ってきて、


「私、メイドのウォルフと申します。本日よりユーキ様の身の回りの世話をさせていただくことになりました。よろしくお願いします」


 と言うなり、長身の彼女は俺の背後から肩越しに腕を回してきた。そして、シャツのボタンを1つ、2つと外し始める。すると、背中にウォルフの豊かな胸の膨らみが当たった。


「ウォ、ウォルフさん――! こ、これは何を――!?」


「服を脱がせておりますが、なにか?」


「じじ、自分でやりますので――んぷっ!」


 振り向いたときに俺の顔面がウォルフの豊かな胸に当たり、ポユンと揺れた。


「んふっ! どうされましたかユーキ様。耳まで真っ赤になられて――」


「べべ、べつに何でもないっすッ!」


 もう覚悟を決めて成されるがままで身をゆだねようと思った。

 しかしその覚悟はすぐに崩れることになる――


「ユーキちゃま、あたちメイドのフォクスでちゅ。おじゅぼんをぬいでいただくのでちゅ」


 と言いながら、茶色い獣耳のフォクスが小さなお手々で俺のズボンを脱がそうとしてくる。


「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ――!」


 堪らずフォクスの小さなお手々を掴んで制止する。


「あんっ、ユーマ様ったらぁぁぁ!」


 俺が前屈みになったことで、ウォルフが俺の背中に乗っかかるような体勢となってしまい、2つの胸が背中に密着した。

 胸の大きな獣耳女性に後ろから抱きつかれながら、獣耳幼女のお手々をぎゅっと握っている男――それが俺、ユーマの現状だ。


 それにしてフォクスという子は見た目以上に幼い女の子だった。年格好からすると人間の12歳前後に見えるものの、言葉遣いからすると3歳児相当というところか。


 コートを羽織りながらウォルフに訊いてみたところ、魔族は基本的にヒト属性と獣属性の2系統に分かれており、獣属性は成長が異様に速いらしい。フォクスは数週間前に生まれ、今後1ヶ月程度で急速に心も体も成長する。それ以降は人間の寿命を遙かに超えるほどゆっくりと老いていくそうだ。

 

 不躾ぶしつけににドアが開いてバラチンが戻ってきた。

 どうやら魔族にはドアをノックするという習慣はないらしい。

 バラチンは僕の正装を見るなり、ぷっと吹き出して笑った。


「おっと、これは失礼――」


 本当に失礼だよ。


「『森の魔獣にも衣装』とはこのことですな、お似合いでございますユーマ殿」


 バラチンは紳士のように一礼したけれど、絶対それも悪口だよね。


「式典の準備が整いましたので、さあこちらへ」


 ウォルフがドアをすっと開けて、バラチンが廊下へ出る。その後を付いていこうとしたら、慣れないブーツで足がもつれてしまった。

 バランスを崩してよろけた先にフォクスのふさふさの尻尾があって、ぎゅっと踏んづけてしまった。


 僕がフォクスに謝る間もなく、フォクスの顔が真っ赤に膨れあがり――


『うにゃぁぁぁ――――!』


「うぎゃぁぁぁ――――!」


 彼女の大きく開かれた口から炎が吹き出し俺を襲ってきた。



 *****



「ご、ごめんなちゃい……ユーマちゃま……」


 涙目になって何度もぺこぺこと頭を下げるフォクス。


「ユーマ様が少しお焦げになっただけで済んだから良かったものの、本焼きになっていたらアリシアお嬢様になんとお詫びすれば良いのやら……まあ恐ろしい」


 ウォルフが両腕を抱えて震える仕草をした。


「いいよいいよ、俺がフォクスちゃんの尻尾を踏んじゃったのが悪いんだから」


 フォクスの頭をなでなでして許した。


「ふむ……ユーマ殿が着用されておられるこのコートは耐炎属性魔法の生地が織り込まれているゆえに、コートは全く無傷のようですな。良かった良かったー、ですな」


 バラチンは棒読みのような感じで言ってきたけれど、それは無視だ。


「行ってらっしゃいユーマちゃま!」

「ああ、行ってくるよフォクスちゃん!」

「お床の準備を尽くしてお待ちしております。行ってらっしゃいませ――」

「はい、行ってきますウォルフさん……」 


 ん!?

 お床の準備って……なに?


 こうして俺はバラチンに連れられて謎の式典に向かうのだった。

  

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