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第12話 卑怯な手段

 俺が気絶している間、魔王直属の長老会という組織のメンバーによる話し合いがもたれたという。その中で、俺が魔王城に残ることができる唯一の道が示されていた。それがアリシアとの結婚であるらしい。魔王の親族となれば俺は晴れて魔族の一員という扱いになるというのだ。


『ならぬ! そのような男に娘をやれるか! そいつは人間だぞぉぉぉー!』


 魔王は立ち上がり、玉座の間が揺れる。

 魔王の声は衝撃波となり、建物の壁面の一部が崩れ落ちた。

 戦闘モードの時と同じく、脳に直接声が届いていた。


「我が魔王の言うとおりである! さあお嬢様、そこをお退きください。吾輩が奴めを一撃で仕留めますゆえに――」


 バラチンがロングソードを抜いた。


「どきません! どうしてもと言うならバラチン、アタシを先に倒しなさい!」


 アリシアも双剣を構える。すると今まで一切の動きを見せなかった黒装束の魔人がアリシアの背後に回り、耳元で――


「お嬢様……拙者達はどう動きましょうか?」

「カルバスはユーマを守っていてちょうだい!」

「はっ、御意に!」


 カルバスと呼ばれた魔人は俺と目を合わせて――


「お嬢様の命令とあれば、汚い人間と言えども拙者は守るのでござるよ」


 何か感じ悪い!

 この場にいるもう1人の黒装束の魔人に向かってカルバスは合図をする。

 すると、2人はすっと同時に姿を消し、次の瞬間には俺の目の前に来ていた。

 はっ、速い! その動きがあまりにも速くて俺の目には見えなかったのだ。


 一方、アリシアとバラチンの対決は間合いのせめぎ合いとなっている。どちらかが動くとすぐにでも斬り合いが始まりそうな緊張感が漂っている。魔王も二人の戦いを止めるつもりはないらしく、ごくりと生唾を飲み込んでいた。



「ぶぇっくしょぉぉぉん――!!」



 長い鼻のエレファンが大きなクシャミをし、それを切っ掛けとして二人は斬り掛かる。


 バラチンはロングソードで正面突き。

 アリシアは低い体勢からひねりを加えて左手の剣でいなす。

 その勢いのまま体を回転させ右手の剣でバラチンの胴体を狙っていく。

 しかし、バラチンは体をくの字に折り曲げそれを避ける。


 そして再び剣を構えて対峙する。


「なかなかやりますな、お嬢様――」

「バラチンこそ、その老体で良く動けているわ!」

「……吾輩は我が魔王と同じ世代ゆえに……今のお言葉は我が魔王に向けて言っているのと同義ですぞ?」

「ご、ごめんなさいお父様っ、アタシはそんなこと微塵も思ってはませんよ?」


 アリシアはファザコンなんだろうか?

 緊張した雰囲気がすっ飛んで、一気にあたふたしている。


 そんな時、長い鼻のエレファンが太くて短い足でとことこ歩み寄り、   


「あのう……長老会が決めた期限は明日の夕刻ですゾウ。ユーマ殿とアリシア様のご結婚の可否については、それまでにじっくりと話し合い、互いに納得できる結論を出すと良いのですゾウ」


 耳をぱたぱたさせながら言った。

 アリシアと魔王はその意見に賛成のようで、頷いている。

 バラチンはどうあっても結婚に反対の様で不満顔。

 そして俺は……エレファンが言った『明日』というキーワードが余韻となって残っていた。明日……明日という言葉に何か引っ掛かる。明日は何か大事なことがあったような……


「あ――――ッ!」

「な、何事!?」


 俺の叫び声に皆が一斉に振り向いた。


「明日、ミュータスさん達の本陣がこの城に攻めてくる!」

「なんで急に?」

「城に攻めてきたときに聞いたんだ。ミュータスさん達は明日の一斉攻撃のための斥候が任務と言っていた。本格的な攻撃は明日なんだ!」


 俺は天井を見上げる。玉座の間の天井は城から突き出た塔の一つと繋がっている。そこから空の様子が見えるのだが……


「もう夕方になるけれど、今から行けば暗くなる前に最前線に着けるだろうか? 俺にはこの周辺の地理はよく分からないのだけれど……」

「では少しお待ちください――」


 カルバスとは別の黒装束の魔人がすっと胸元から巻紙を出す。

 それを広げると、この周辺の地図が出てきた。


「ここが魔王城。その南側には森があり、その森を突き抜けると大きな湖に出ます。本来はそこを迂回するのですが、我々の足では湖を直進し進むことができます。そこから一山越えた先が、現在の最前線となり、そこに敵方の本陣があります」


 地図を指しながら分かりやすく説明してくれた。カルバスが頑丈な体つきなのに対して、この魔人は随分華奢なかんじで、声も優しかった。


「みんな聞いてくれ! 人間は夕食の時間になるとホッと一息つく。その時間帯に奇襲を仕掛ければうまくすれば敵を一掃できると思うのだけれど……」

「なるほど、奇襲とは卑怯な人間の考えそうな手段ですな。しかし――今の我々には最適な作戦かと――」 


 バラチンがロングソードを鞘に収めて魔王に進言した。



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