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第11話 もう一つの方法

 次に目を覚ました時には、玉座の間の祭壇上には魔王とアリシア、バラチン、そして黒装束の男達の他に、鼻の長い魔人だけが残っていた。


「長年医療に携わってはおりますが、人間の治療をしたのは今回が初めてですゾウ。貴重な体験をしましたゾウ」


 長い鼻の魔人は顔が異様に大きく首は見えない。大きな耳をぱたぱたさせて興奮気味に話しかけてきた。うん、この人はあれだ……父が残してくれた異世界動物図鑑で何度も眺めていた象に似ている。不思議なことに魔獣や魔人は異世界の動物をモチーフに創られていることが多いのだ。


「さすがは魔王軍一の名医エレファンね! 人間を初見で治療できるなんて素敵なことだわ。後で報奨金を振り込んでおくからねっ!」


 アリシアがエレファンの毛の生えていない頭に手を置くと、大きな耳を更に激しくぱたぱたさせて、長い鼻を上に向けて霧状のものを吹き出した。

 まるでクシャミが降りかかったような感じで気持ち悪い。顔に付いた鼻水のような水滴を袖で拭いている俺を見て、アリシアが楽しそうに笑っている。


「それは消毒ですゾウ。治療のアフターサービスですゾウ」

「これが消毒? 鼻水が?」

「エレファンの言うことは間違い無いわ! 良かったわねユーマ」


 何が良かったのかは分からないけれど……自分の体のあちこちを触ってみるとあながち嘘ではないようだ。バラチンとの決闘で傷付いていた体中の傷がすっかり良くなっていた。 



 *****


「さて、ユーマよ。此度の一件は魔族の王として褒美を与えるに相応しい活躍と考えておるのだが――」


 俺はアリシアの指示で魔王の前に片膝を付いて、右手を胸に当てて視線を落としている。彼女曰く、これは魔族の王に対する敬服の姿勢らしい。


「お前は所詮人間だ。今すぐ城から出て行くが良い。我が領土より出るまでは魔王軍はお前を襲わない。それが儂からお前に与える褒美と心得よ」

「はあーっ!?」

「お、お父様、それでは話が違いすぎます! ユーマは……この人間はアタシが悪魔ルルシェに願って召喚された救世主なのですよ?」

「お嬢様、魔王をあまり困らせるものではありません。所詮人間ごときを殺さず逃がしてやるということ自体が魔王の温情なのであります故に――」


 執事服のバラチンは、蔑むような目で俺を睨んでいる。くそっ!


 それにしても、戦闘時の魔王は玉座の間を振るわすほどの轟音と共に言葉を発していたけれど、平常時は普通にしゃべることができるらしい。顔は強面で、身長は4メートルを超える巨体の迫力は相変わらずではあるが。その魔王が俺を魔王城から逃がしてくれようとしているらしい。


「しかし……お父様がご病気なことは人間に知られてしまいました。近々、人間の総攻撃が予想されます。そうなると魔王城は陥落、お父様は人間に殺されてしまいます……」


 うん。確かにアリシアはミュータスさん達が玉座の間に攻め入った直後に、魔王の病気のことをしゃべっていた。


「だからこそ、ユーマの救世主としての力が必要なのです。アタシの魔力とユーマの魔力を掛け合わせた特殊スキルによって――」

「ちょ、ちょっと待って! 俺には魔力なんてないから!」

「……へ!?」

「俺はただの農民の子。生まれつき魔力なんて存在しないし、武器の扱い方だって何にも知らない」

「……だって、あなたは悪魔ルルシェに救世主として選ばれた人。確かにアタシも魔人ではなく人間であるあなたを見た時には驚いたけれど……それも悪魔ルルシェの見立てに間違いはないはずよ? それをあなたは……ユーマは自ら否定するというの?」


 アリシアは悲しそうな目で俺を見つめている。魔力の源である角を差し出して手に入れた救世主という存在。それが人間の俺と知った時の彼女の落胆は相当のものだっただろう。それを彼女は乗り越え、俺に期待をかけている……ということか。


 でも……


「我が魔王よ、お嬢様は苦しんでおられます。それもこれも、すべてはこの人間が元凶故に……苦しみの元はすぐに取り除いてしまいましょうぞ!」

「これ以上はユーマに手出しはさせませんよ、バラチン!」


 アリシアがバラチンから庇う位置に立った。

 後ろ手に三日月型に湾曲した片手剣を隠して。


「待て!」


 魔王が手の平を向けて制止した。


「さてユーマよ、お前はどうする? 返答次第ではこの場でお前の首を落とすことになるのだが――」

「待ってお父様! 先程の討議で提案された方法がもう一つあったはずですが」

「いや、それは……その……アリシア……」


 俺が気絶している間に何か話し合いがもたれていたらしい。

 俺の首を落とすとか物騒なことを言い始めた魔王の気勢が、アリシアの一言で()がれていく。


「ユーマ、アタシはあなたを手放したくはないの!」


 なぜかアリシアはうつむき加減で俺の前に立つ。

 そして、俺の手をぎゅっと握った。


「アタシたち、結婚しましょう!」


 アリシアは真剣な表情で、俺にそう言った。

 

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