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第二章2   『事件予告』

 藤堂さんは俺に壁ドンするみたいにして、しかと俺の目を見て言った。

「開くん。わたしには敬語を使わなくてもいいぞ」

 声のトーンはクールなままだが、しゃべり方はカタイ男言葉になっている。

「そうかい? わかったよ、藤堂くん」

 この声、また凪か。

 俺が横を見ると、やはり凪の姿があった。

 いつの間にか侵入していた凪に気づいた藤堂さんは、ザザザっと壁まで移動して背を預け、驚きの顔をする。

「い、いらっしゃったんですか?」

 あ、また敬語に戻った。

「うん。いらっしゃいませ~」と凪。

「それはこっちのセリフだ。まったく、おまえはいつもそうやって勝手に部屋に入ってきて。どうしたんだ?」

 俺が平然と問いかけると、凪は部屋を見回して、

「開の部屋がぼくの部屋と同じか気になってさ。ピカッと見に来たんだ」

「そこで擬音語はおかしいだろ? 相変わらず日本語がめちゃくちゃだな、おまえは」

「いや~。そんな~。ははは」

「褒めてないって。あはは」

 するとここで、藤堂さんがドアを開けて、凪を見て廊下へ手を向ける。

「すみません。少し開さんとお話があるので出て行ってもらってよろしいですか?」

「え~。ぼく、開の大親友だし話くらいいっしょに聞くよ」

「いいえ。お友達に聞かせるほどでもないお話ですから」

「ささいなことでも友達としては知っておきたいのさ」

「いえいえ。それには及びません。ほんのくだらなくて、つまらなくて、胸が悪くなるような嫌なお話ですから」

 そんな話をするつもりなのか、この人。おまえも出ていけ。

「なんだ。それじゃあぼく聞きたくないや。ぼくもちょっと荷物を置いてくるよ」

「はい。いってらっしゃいませ」

 丁寧に斜め七十五度に礼をする藤堂さん。

「うん、いってくる。すぐに戻るね」

「いいえ。お構いなく」

 廊下に顔を出して凪が出て行ったのを確認して、ガチャとドアを閉める。さらに部屋を見回してなにもないことを確認すると、藤堂さんは肩を下ろした。

「ふう。邪魔者もいなくなったことだし、話を始めよう」

「はい、どうぞ」

「だから、わたしには敬語は必要ないと言っただろう?」

「いえ。俺は敬語でいいですよ」

「そうか。好きにしろ」

 むしろなんで藤堂さんが敬語じゃなくなったんだ。まあ、目上の相手に敬語でしゃべってもらおうなんて、最初から考えちゃいないけれど。

「あの、藤堂さん」

「遠慮するな。呼び方も藤堂さんではなく、高菜と呼べ」

「まあ、呼び方くらいは、高菜さんでもいいですけれど。これはなんなんですか?」

 高菜。藤堂高菜。

 彼女はこんな人だったのか? しかしなにか意図があってこんなことを言い出していることは確かだ。俺の反応を見ようというより、自分の言葉を伝えようとする意思というか、そんな姿勢が見える。

 そして予想通り、高菜さんは俺の返事を気にするより、自分の案件を伝達するように言葉を続けた。

「開くん。キミには今回のフライト中にやらなければならないことがある。そのために、わたしはキミに手を貸すこともあるだろう。それだけ言っておこうと思ってな」

 キャラクター性はさっきまでのクールな秘書の姿と変わらないし、強いて変わった点を挙げるとすれば言葉遣いが普段の(?)彼女のモノになったくらいだ。

「で、高菜さん。それって、探偵の俺に、解いてほしい謎でもあるってことですか?」

 それ以外に俺がすべきことなんてありはしない。

 やはり、思った通り、高菜さんは振り向いてうなずいた。

「ああ。端的に言えばそうだ」

「その謎とは?」

 しかし高菜さんは首を振った。

「いや。それはまだ言えない。わたしが謎解きを依頼するまでもなく、キミが解くことになるからだ」

「待ってください。それじゃあ、俺にはどうしようもないです。高菜さんは一体なにを知っていて、なにを知らないんですか? 他に情報はないんですか?」

「いまはまだ」

「そうですか。わかりました。とりあえず、なにかあったら高菜さんに聞きますね」

「ああ。そうしろ。場合によっては、わたしにもできることがあるだろう」

 この様子じゃ、なにかが起こることは知っているけれど、なにがどうなるかは知らない――高菜さん本人にはあまり重要ではなく、関係が薄いことかもしれない、ってところかな。まあ、クールで感情を表に出さない高菜さんのこと だから、本当は高菜さん本人にとっても重要なことかもしれないけれど。

「ときに、開くん」

「はい」

「あの柳屋凪と御涼鈴は何者なんだ。特に柳屋凪、あいつは怪し過ぎる。そもそもわたしのデータでは、二人は予定になかったはずだが」

「ああ、そうなんですよ。うちの所長が昨日の深夜に急遽誘ったそうです。俺もこの飛行場に来るまで知らなかったくらいですから」

「ふむ。そうか。やはり気をつけておくべきだな」

「まあ、凪は変なやつですから、気をつけるに越したことないですよ。調子狂うし計画も狂うかもですし」

「要注意人物ということだな」

 俺は冗談めかして、

「鈴ちゃんなんて、昔は凪のことテロリストだと思ってたんですよ。いくら怪しいって言ってもさすがにテロリストだなんて笑っちゃいますよね」

「テ、テロリストだと!?」

 あれ? 高菜さん、真剣な顔で悩んでいる。

「あの、勘違いですよ。鈴ちゃんの思い込みで……」

「徹底的に注意せねばならないようだな。アドバイス感謝する」

「聞いてないんだね」

 あはは、と俺は苦笑いを浮かべる。

 高菜さんは俺の横を通り過ぎ、

「よし。では、わたしは外で待っている。荷物を下ろしたら来い。貴重品は忘れず持ってくるようにな」

 と言って部屋を出て行った。

 俺は荷物を下ろし、一度ベッドに腰を下ろした。

 それにしても。

 高菜さんは、なにを知っているんだ。

 予告と受け取ってよいのかは確証もないが、どうも引っかかる。

 俺は立ち上がって、貴重品のケータイと財布をポケットに入れた。

「事件が起こるってことなのか……?」

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