プロローグ2 『探偵と怪盗』
今日は四月の最終日。
明日から五月だ。
そして、俺は明日からちょっとした旅行に行くことになっているのだ。
「その旅行っていうのが、飛行船に乗ってアメリカのニューヨークまで行く旅なんだ」
俺がそう言うと、目の前にいるくせ毛の少年はやれやれと手を広げる。
「キミってばまた自慢か~。映画の冒頭で毎回スネ夫くんに自慢されるのび太くんの気持ちがよくわかるよ。あ、でもぼくがのび太くんならキミはドラえもんか」
「なんでそうなるんだよ」
「じゃあ、しんちゃんに自慢する風間くん。うん、ぼくたちは大親友だからそっちの方が近いかもしれない。そっくりそのままおんなじだ」
「全然ちがーう! 俺たちは親友でも友達でもない」
「ツンデレなところもおんなじだ」
驚いた顔で声を漏らすこいつは、柳屋凪。
凪のくせ毛は英国少年風な品のよさがあり、顔も悪くない。整った顔立ちだけどやる気の感じられない能天気な表情がせっかくの素材を無駄にしているやつなのだ。
現在高校二年生。俺の中学時代のクラスメートで、いまは別の高校に通っている。仲良くはないがこうしていまでも顔を合わせるのは、凪が情報屋をしているからである。
で、なんで俺が情報屋なんかと連絡を取り合うのか。
それは、俺が探偵をしているからだ。
ここで簡単に、俺の自己紹介もしておこう。
俺の名前は、明智開。
世間からは探偵王子と呼ばれる高校二年生だ。
誕生日も五月だからもうすぐ十七歳。自分で言うのもなんだけど、地元で一番頭のいい公立高校に通うくらいに勉強もできる。まあ、それくらいじゃないと探偵なんてできないけどね。また、身長は一七〇センチ近くある。だが、そのあと二センチが遠いのだけれど。
「つーか、凪。どうしておまえがここにいるんだよ」
「ぼくは開の相棒だからさ」
「相棒じゃねーよ。情報屋の仕事か?」
「もち。偶然会えるなんて、ぼくたちは運命で繋がっているらしい」
「気味悪いこと言うな」
なんでこいつはいつも俺を相棒呼ばわりするんだか。
「開、ぼくたちでいっしょに楽しい旅行にしようね」
「ふざけるな! おまえは誘われてないの!」
「冷たいこと言うなよ」
「俺だって遊びに行くわけじゃないんだぞ。ニューヨークのパーティーに所長と参加して、ホワイトプリンセスって宝石を怪盗ゼロから守らないといけないんだ」
「怪盗ゼロね~」
凪は楽しそうに頭の後ろで手を組む。
すると。
キャーという黄色い声が聞こえる。
「ん?」
「あれだよ」
と、凪が大型家電量販店にある、巨大モニターを指差す。
ここは新宿。東口方面。
ちょっとした探偵の調査の仕事でこっちに来ていた。
そこの巨大モニターの映像に俺は足を止める。
「あれは、怪盗ゼロ」
怪盗ゼロ。
ヤツは世間を賑わす大泥棒であり、俺の探偵事務所の所長とは好敵手。俺や凪たちともライバルのような存在である。
探偵VS怪盗。
この縮図はどうしても避けられないらしい。
変装の名人で、千の顔を持つとも言われる、現代に蘇った怪人二十面相などとマスコミにも持ち上げられる人気者なのだ。
オレ様でキザで、義賊的な振る舞いを見せることもあるからだと思うが、泥棒は犯罪だ。絶対つかまえる!
巨大モニターでは、怪盗ゼロのニュースが流れている。
『怪盗ゼロから、予告状が届いています』
予告状は英語で書かれていた。
『品森轟社長へ 5月1日、パーティーの中ホワイトプリンセスをいただきに参上する 怪盗ゼロ』
これが予告状の日本語訳。
その予告状は、俺がすでに知っているものだ。
予告状の次は、怪盗ゼロが華麗にカメラや警察官たちの前に舞い降りるシーン。そして派手なアクロバットで警察官たちを翻弄するシーン。最後に、裏で悪い噂が流れる企業家のお宝が盗まれ社長が悔しそうに喚くシーンのハイライトが映し出されている。これはつい一週間ほど前のものだ。
「キャー! ゼロ様ステキー」
「やっぱりカッコイイわ~」
道中にも関わらずキャーキャー歓声上げる女性やうっとりと見入っている女性もいる。無理もない。スタイリッシュな黒いスーツとシルクハット、白い手袋、たなびくマント、目を覆う仮面。美しい動作にあんな目立つ恰好じゃ、人目を惹く。
「大人気だね。ゼロは見栄っ張りで目立ちたがりだからな~」
薄く微笑んで飄々とそう言う凪。
「あいつ、本当にどこまで目立ちたがりなんだか」
「おっ、探偵王子が嫉妬してる」
「してねーよ。探偵王子って呼ぶな」
「いいじゃないか。世間で人気なのはいっしょだしね、探偵王子」
「……む」
まったく。メディアで取り上げられるのはいいが、人にそう呼ばれるのはちょっと恥ずかしいのだ。
「果たして今回の事件、どうなることやら」
と、凪は片目をつむって怪盗ゼロを見て、きびすを返した。
俺は誰にともなく、つぶやく。
「怪盗ゼロ、今度こそつかまえてやる」
(2017-12-13に作成したイラスト)
◆
以下、本作で登場する少年探偵団の主要メンバー4人のキャラクター紹介。
プロフィール的な設定資料なので、読まずに次のページへ進んでも問題ありません。
◆ 明智開 (あけち かい)
年齢:17歳(高校二年生)
性別:男
誕生日:5月9日
星座:おうし座
血液型:A型
身長:168cm
体重:58kg
(2018-12-25に作成したイラスト。連載中の『ルミナリーファンタジーの迷宮』用ですが、キャラクターを知ってもらう上で参考になれば)
本作の主人公。語り部。
世間から《探偵王子》と呼ばれている少年探偵。
少年探偵団のメンバーで、鳴沢探偵事務所に所属。
容姿端麗で頭脳明晰、観察力や洞察力にも長けるが、知識量が多いわけではなく、情報収集がやや苦手。そのため、開の相棒の凪や、開の探偵助手の逸美の力を借りて推理を展開することが多い。
性格はまじめで穏やかな優等生気質。逸美には仕事面と精神面、どちらにおいても甘えるところがあるなど、しっかり者に見えて子供っぽい一面もある。
◆ 柳屋凪 (やなぎや なぎ)
年齢:17歳(高校二年生)
性別:男
誕生日:6月5日
星座:ふたご座
血液型:不明
身長:168cm
体重:56kg
以下2枚のイラストは、連載中の『ルミナリーファンタジーの迷宮』用ですが、キャラクターを知ってもらう上で参考になれば幸いです。
(以前作成したものに微修正を加えたもの。2018-12-10追加)
(2018-12-22に作成したイラスト)
本作のもうひとりの主人公。
トリックスター的存在。
自称・開の相棒。
神出鬼没の情報屋。
少年探偵団のメンバー。
お気楽マイペースな飄々とした性格。ぼそっとおもしろいことを言ったり核心を突くことを言ったり、意外と周りをよく見ているが、とらえどころがない。
圧倒的な情報収集能力・情報処理能力を持ち、またムダ知識も豊富。それらの知識と情報で開をサポートする。
◆ 密逸美 (みつ いつみ)
年齢:19歳(大学一年生)
性別:女
誕生日:11月14日
星座:さそり座
血液型:O型
身長:168cm
体重:59kg
(2018-05-15に作成したイラスト。連載中の『ルミナリーファンタジーの迷宮』用ですが、キャラクターを知ってもらう上で参考になれば)
開の探偵助手。膨大な知識で開をサポートする。鳴沢探偵事務所に所属。少年探偵団のメンバーで事務所の管理人でもある。みんなのお姉さん的存在。物事に動じないおっとりとして天然な性格。幼馴染でもある開を弟のように可愛がっている。
◆ 御涼鈴 (みすずみ すず)
年齢:15歳(中学三年生)
性別:女
誕生日:9月9日
星座:おとめ座
血液型:A型
身長:150cm
体重:40kg
(2018-05-22に作成したイラスト。連載中の『ルミナリーファンタジーの迷宮』用ですが、キャラクターを知ってもらう上で参考になれば)
少年探偵団のメンバー。雑用係兼リアクション担当と凪に言われている。凪に素直になれないのが悩み。イギリス人とのクオーターで、金髪碧眼。楚々としてお上品だが、表情は豊か。折り目正しいお嬢様。
ページ内にキャラクター紹介を追加しました(2019-01-18)。
本作を楽しむ一助になれば幸いです。