生きている
目を開くと、明かりの灯る部屋の天井がまず視界に入った。
同時にカルマは、自分の目が開いたことを信じられなかった。
「あら、気づかれたようですね。気分はいかがですか?」
少女が上からのぞき込んできた。どうも自分はベッドの上で仰向けになっているようだ。
看病用の椅子に腰掛けている女の子は、見た感じカルマと年が近そうだった。
彼女はエプロンドレスを身に纏っている。そのカッチリとした服装と、背筋をピンと伸ばし、両手を体の正面で重ねているその態度が、いかにも礼儀正しそうな雰囲気を醸し出している。
「びっくりしましたよ、あなたが砂漠のど真ん中で倒れていたときは。しかも血塗れで。でもどうにか無事でよかったです」
少女がとてもにこやかに笑いかけてくれた。
「…………」
カルマは何も言えずにいた。今の自分の状況に実感が沸かなかったのだ。
カルマにとって何時間にも感じる沈黙の後、ようやく一言。
「俺、生きてるのか」
「? もちろんです。心臓は止まっていませんし、目も見えているのでしょう? 死んでいるわけありませんよ」
生きている。
カルマはうわごとのように繰り返した。
先ほどまで目の裏に焼き付いていた光景が今一度蘇る。
ちぎれ飛ぶ自分の腕。
吹き出す血。
薄れゆく意識。
大きく開けた魔物の口。
ギラリと光った牙。
だらりと滴る汚らしい涎。
カルマ以外の誰だろうと、あれを体験をしたら思うだろう。「死んだ」と。
なのに生きている。自分が。
「ははっ……」
思わず笑いがこみ上げた。視界がにじむ。そしてぽつりと呟く。
「--怖かったよ……。死ぬかと思ったよ……!」
ぽろぽろと、大粒の涙がこぼれ落ちた。布団の中にいるのに体の震えが止まらなかった。
それからはもう、何も考えず、ただ子どものように泣きじゃくった。『子どもらしく』なのかもしれない。
何度も繰り返した。「怖かったよ」「死ぬかと思ったよ」「痛かったよ」と。
少女は椅子に腰掛けたまま、カルマが泣き止むまでずっとそばに寄り添ってくれた。頭を撫で、背中をさすり、流れる涙を拭いてくれた。「怖かったんですね」「もう大丈夫ですよ」と優しく言葉をかけてくれた。