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名無しの手紙0 〜カルマとロボット〜  作者: 山本良磨
第2話 ファルシオン編 その1
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生きている

 目を開くと、明かりの灯る部屋の天井がまず視界に入った。

 同時にカルマは、自分の目が開いたことを信じられなかった。

「あら、気づかれたようですね。気分はいかがですか?」

 少女が上からのぞき込んできた。どうも自分はベッドの上で仰向けになっているようだ。

 看病用の椅子に腰掛けている女の子は、見た感じカルマと年が近そうだった。

 彼女はエプロンドレスを身に纏っている。そのカッチリとした服装と、背筋をピンと伸ばし、両手を体の正面で重ねているその態度が、いかにも礼儀正しそうな雰囲気を醸し出している。

「びっくりしましたよ、あなたが砂漠のど真ん中で倒れていたときは。しかも血塗れで。でもどうにか無事でよかったです」

 少女がとてもにこやかに笑いかけてくれた。

「…………」

 カルマは何も言えずにいた。今の自分の状況に実感が沸かなかったのだ。

 カルマにとって何時間にも感じる沈黙の後、ようやく一言。

「俺、生きてるのか」

「? もちろんです。心臓は止まっていませんし、目も見えているのでしょう? 死んでいるわけありませんよ」


 生きている。


 カルマはうわごとのように繰り返した。

 先ほどまで目の裏に焼き付いていた光景が今一度蘇る。

 ちぎれ飛ぶ自分の腕。

 吹き出す血。

 薄れゆく意識。

 大きく開けた魔物の口。

 ギラリと光った牙。

 だらりと滴る汚らしい涎。

 カルマ以外の誰だろうと、あれを体験をしたら思うだろう。「死んだ」と。

 なのに生きている。自分が。

「ははっ……」

 思わず笑いがこみ上げた。視界がにじむ。そしてぽつりと呟く。


「--怖かったよ……。死ぬかと思ったよ……!」


 ぽろぽろと、大粒の涙がこぼれ落ちた。布団の中にいるのに体の震えが止まらなかった。

 それからはもう、何も考えず、ただ子どものように泣きじゃくった。『子どもらしく』なのかもしれない。

 何度も繰り返した。「怖かったよ」「死ぬかと思ったよ」「痛かったよ」と。

 少女は椅子に腰掛けたまま、カルマが泣き止むまでずっとそばに寄り添ってくれた。頭を撫で、背中をさすり、流れる涙を拭いてくれた。「怖かったんですね」「もう大丈夫ですよ」と優しく言葉をかけてくれた。

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