ごめん
それから二日後の夜中、カルマは物音で目が覚める。夜が明けたらついにカルマの誕生日だ。
(あれ……、俺なんで目が覚めたんだろ?)
不思議に思いながら体を起こして周りをキョロキョロ見回すと、三人の友人がいないことに気づいた。
もしかしたら、彼らが部屋を抜け出す音で目が覚めたのかもしれない。カルマはそう考えた。
そうであれば、しばらくしたら帰ってくるはず。再びベッドへ横になって寝ようと目を閉じた。
(外で足音?)
目を閉じると、視覚を遮断した分聴覚が研ぎすまされる。カルマの耳がとらえたのは、外の砂を踏みしめて歩くサクサクという足音だった。
再び目を開き、部屋の窓を開けて外を確認する。上は月と星と紺色の夜空。下は月明かりに照らされた灰色の砂。そしてその境目に、蠢く黒い人のシルエットが見えた。しかも複数。
毎日一緒に過ごしているので、暗がりでも、遠くからでも誰なのかは分かる。ワンダたちだ。
「あいつら、何やってんだ? どこに行って--?」
影はこちらに帰ってくる様子はなく、少しずつ小さくなっている。
カルマは他の誰も起こさないよう、足音に最大限気をつけながら孤児院のから外へ飛び出した。先を行く彼らを追う。
* * *
「--ちょっと待てって! おい!」
カルマはようやくワンダたち三人に追いついた。柔らかい砂漠の砂に足を取られて思うように動けず、気がついたら全身から汗が吹き出していた。
「あ、カルマ。どうして来るんだよ……」ワンダが言って、
「だって、どんどん遠くに行ってたから、心配で」
「だ、大丈夫ですって! だからほら、カルマさんは帰って--」ニコが言って、
「いや、でもみんなは? 帰らないの? どこかに行こうとしてるの?」
「……ん」トリオは黙っていた。
それっきり三人とも何も言わなくなってしまった。それぞれが違う方向へそっぽを向き、カルマと頑なに視線を合わせようとしない。何か隠している。でも、何を?
ふと、カルマはピンときた。
「もしかして……、ファルシオンに? 遺物を取りに行くのか?」
直後、ワンダが頭を抱えて叫び声を上げた。深夜、孤児院から遠く離れた砂漠のど真ん中だと、その声はいつもより鮮明に聞こえる。
「あーあ! これだからマジメ君はよう! 少しは察しろよ! 口に出さずに黙って帰るくらいの思いやりを見せろよう!」
「……あっ! ごめん」
「遅えよう!」
ワンダは膝をついて両手を地面に叩き付けた。よくもまあ、これほどのものすごい勢いの落ち込み方があったものだ。ワンダはノリが良く、リアクションも大きいので、見ていて飽きない。
「なんか、ホントごめんな……。でも意外だな。ニコは反対しそうだけど」
「うーん、まあ、せっかくの誕生日ですしちょっとくらいいいかなと。それに実のところ僕も見てみたいですし、ファルシオンの遺物」
「トリオは……」
「おやつ一週間分くれるって」
「あ、そう」
それでいいのかよ! カルマは内心つっこんだ。
「ありがとな」
カルマは本心からそう伝えた。ナディアやマザーに反対されながらも自分のためにプレゼントを手に入れようとしてくれている彼らの姿がとても嬉しかった。こいつらと友達で本当によかったと心から思った。
「よせよ水くさい。……で、お前どうすんの?」
「え、何が?」
「決まってんだろ。一緒についてくるのか、それとも家に帰って俺たちを待つのかって話だ?」
ニコがワンダの補足を加える。
「これからファルシオンに行くのは、カルマの誕生日プレゼントを取りに行くために僕たちが行くんですから、カルマがついてくる必要はないですよ」
「…………」
トリオは黙ってじっとカルマをのぞき込んでいた。
カルマは腕を組んでいろいろ思い浮かべた。ファルシオンの廃れた街並のイメージ、ファルシオンの遺物のイメージ、自分たちの孤児院の部屋、ナディア、そしてマザーの顔を。
(……ごめん、母さん)
そして、好奇心が勝った。
「うん。俺行きたい。一緒に行ってもいいかなあ?」
「決まりだな」ワンダがにんまりと笑って。
「ですね」ニコが同意した。
カルマとワンダ、ニコ、トリオと共にファルシオンを目指す。