第3話 「追放された俺、いきなり最強でした」
「レイン、それが俺の名前だ」
朝の光の中、俺は小さく呟いた。
隣ではフェンが、のんびりとあくびをしている。
昨日の出来事が、まだ信じられない。
あの圧倒的な力。
そして、頭の中に響いた“契約完了”の声。
「……試してみるか」
俺はゆっくりと立ち上がった。
手を軽く握る。
——ドクン
体の奥で、力が脈打つ。
「……すごいな、これ」
今までとは比べ物にならない感覚。
これなら——
「街に戻るぞ、フェン」
「ワン!」
フェンは嬉しそうに尻尾を振った。
⸻
数時間後。
俺たちは、最寄りの街へと辿り着いた。
冒険者たちで賑わう、活気のある場所だ。
「……久しぶりだな」
つい数日前まで、ここを拠点にしていた。
だが——
「おい、あれ……」
「追放されたやつじゃね?」
ざわつきが起こる。
当然か。
あんな形で追い出されたんだ。
「……別にいい」
俺は気にせず、ギルドへと足を進めた。
——ギィッ
扉を開けると、一瞬で視線が集まる。
「レイン……?」
受付の女性が、驚いた顔をした。
「依頼、受けたいんだけど」
「え……で、でも……あなたは——」
「追放されたのはパーティーからだ。冒険者じゃないだろ?」
そう言うと、彼女は少し戸惑いながらも頷いた。
「……わかりました。ですが、危険度の低いものに——」
「一番難しいやつでいい」
「え?」
周囲がざわめく。
「無理だろ」「調子乗ってるな」
そんな声が聞こえてくる。
でも——
「問題ない」
俺は静かに言い切った。
⸻
選んだのは、討伐依頼。
それも、この辺りではかなり危険とされている魔物。
普通なら、パーティーで挑むレベルだ。
「本当に、一人で行くんですか……?」
受付の女性が不安そうに聞く。
「一人じゃない」
俺は足元を見た。
「ワン!」
フェンが元気よく鳴く。
「……え?」
周囲の空気が、一瞬で変わった。
「犬連れで行く気かよ……」
「死にに行くようなもんだろ」
失笑が広がる。
——まあ、普通はそう思うよな。
「行ってくる」
俺はそれだけ言って、ギルドを後にした。
⸻
森の奥。
目的の魔物は、すぐに見つかった。
巨大な体。鋭い爪。
昨日のやつと同じクラスの強敵。
「……ちょうどいい」
俺はゆっくりと前に出る。
「フェン、頼むぞ」
「ワン!」
次の瞬間。
フェンの体が光に包まれた。
現れるのは——神獣の姿。
「グルルル……」
その威圧感だけで、魔物が一歩後ずさる。
——でも。
「今回は、俺がやる」
「ワン?」
フェンが少し不思議そうに首をかしげた。
「見せてやるよ」
俺は拳を握る。
体の奥から、力が溢れる。
「——これが俺の力だ」
一歩踏み込む。
地面が砕けた。
「はっ!」
次の瞬間。
俺の拳が、魔物の腹に突き刺さる。
——ドゴォォォンッ!!!
衝撃が爆発した。
魔物の巨体が宙に浮き、そのまま吹き飛ぶ。
「……マジかよ」
自分でも驚いた。
たった一撃。
それだけで、決着がついた。
「ワン!!」
フェンが嬉しそうに吠える。
「はは……すげえな、俺」
笑いが止まらなかった。
あの時、追放された俺とは——もう別人だ。
⸻
その日の夕方。
俺は討伐証明を持って、ギルドへ戻った。
「……え?」
受付の女性が固まる。
「依頼、終わった」
「そ、そんな……早すぎ……」
周囲もざわつく。
「嘘だろ……」
「ありえねえ……」
その時だった。
「——騒がしいな」
聞き覚えのある声が、背後から響いた。
振り返る。
そこにいたのは——
「レオン……」
かつての仲間。
そして、俺を追放した男。
「……戻ってきたのか、レイン」
冷たい目が、俺を見下ろす。
だが——
もう、あの頃の俺じゃない。
「ちょうどいい」
俺は静かに笑った。
「話があるんだよ」
空気が、張り詰める。
——ここからが、本当の始まりだ。




