#5道瞳鉄
ドアを開けると、光が自分に降りかかってくる。
手をかざすと影ができる。そこだけは自分を守ってくれる気がした。
鍵をかけて何処かへ歩き出す。
酒、ライターの文字が頭の中で書き起こされる。
しかし金がない。
給料が入るのは3日後の朝だ。
それまでの間自分を現実に食い止めないといけない。考えるだけで憂鬱だ。
沈んだ気持ちを引きずっていると、繁華街へ出た。
昨日と比べて人は少なく酔っ払いはいない。
親子で手を繋いで歩いている姿が目の前に映る。
咄嗟に下を向く。存在を知られないように息を浅くして早足で脇を過ぎ去る。会話は聞こえなかった。
心臓が血液を送ろうとして激しく動く。同時に心音が全身に行き渡る。日の当たらない場所へ逃げ込んだ。
乾いた風が目の前を過ぎ去っていった。
騒音が耳を震わせる。実態のないものには何も対処できなかった。
息を深く吸う。乾いた喉の奥に空気が送り込まれる。咄嗟に咳が出た。
もう少し歩いたところに公園がある。そこの端にある蛇口で喉を潤そうと思った。
スマホのマップを見なくても行ける範囲にあるのに、なかなかつかない。公園の遊具がやっと見えた。
小さな城を模した物は、数人が登れるくらいの大きさをしている。それと隔離されるように蛇口がある。
捻ると水が勢いよく飛び上がってきた。体が一瞬怯んで小さく飛び上がった。
謎の羞恥心を隠すように首を振って、周りを確認する。誰もいなかった。
跳ねてくる水に抵抗しながら、逆に捻って勢いを弱める。先ほどと打って変わって水位が低い。
小さな穴が空いている光を全て反射しそうな物体は、仕方なしに水をくれてやっていると言いたげだった。
喉を潤した後は、道路側に面しているベンチにもたれかかるように座っていた。雲ひとつない空を見ていると、その下には制服を着た団体がゾロゾロと歩いていた。
横一列に並んだスカートが、太ももに張り付いてそれぞれの形を成している。本人たちは気にせずに談笑していた。
家とは反対方向の道を歩いていく。建物に挟まれて薄暗い。騒音が反響している。間に割り込むように甲高い音が聞こえてくる。
音のする方を見上げると、クレーン車が見えた。
どのようにして、バランスを保っているのかわからない。人間が蟻のように集まっても運べない大きさの資材を軽々と上げていく。
万が一ことは考えないのだろうか、自分には到底できない役割だと思った。
横断歩道を三つ渡ると、進行方向に駅が見えてきた。
雨風にさらされて、全体に茶色みがかかった駅舎は、最低限のスペースと椅子を並べている。
改札に入るお金もないから、ただ椅子に座る。
目先に揉めている声が聞こえた。二対一で言い合いをしている。やがて二人が改札に入って行った。
一人残された男が改札に入らずに、その場に立ち尽くしていた。
時間が止まっている。遠くから電車が近づいてくる音が、時が進んでいることを知らせる。
男が振り向いた。その瞬間に目が合った。眼球に糸を張られて離せない。
不自然に口が開いて、今自分が歪な顔になっているのが嫌でもわかった。
お疲れ様です。タケノハラです。
5話です。後半に入りました。




