#4独音狂
昨日買ったタバコは持ち合わせていた色を出尽くして灰色に近かった。まだ禍々しさが拭いきれていない。
少し凹んだ箱を開けて一本取り出す。滅多に入らない台所の換気扇を回して、コンロに火をつける。
先の方を炙る。じんわりと煙が立つ。
うしろに置いてある木製の踏み台に腰掛ける。コンロの周りには灰皿しかない。
手の大きさほどある赤色を煮詰めたような色のガラス容器には数日分の吸い殻が積もっていた。
聞こえるのは頭上で鳴る空調音とどこかで工事をしている騒音だった。
互いに協調しようとしない二つを聞きながら、空き缶の山を一つの景色として眺める。
手持ち無沙汰でスマホを操作し、カレンダーアプリを開く。
予定が入ったら入力するように決めているが、 バイトのシフトしか書かれていなかった。
現在時刻が画面の左上で小さく主張している。社会人は仕事をしている時間。
そんな時間に自分の空虚を見つめている。
噛みきれないものを吐き出した煙は、あっという間に換気扇に吸い込まれていった。
頭上にあるこれに今まで出してきたものが貼り付いていると信じている。
きっとあそこにしか残っていないのだ。覗き込んでも顔を見せない透き通った汚れが。
いつもの流れで灰皿にタバコを置いて、冷蔵庫を開けると常備してあるはずの酒がなかった。
昨日の自分が全てからにしてしまった。どうしようもなくて呆れる。
そして後悔すると同時に記憶が蘇る。
説教まではいかないが呆れたような宥めるような芯のある声。久しく感じた人の温もり。
家族の愛も友人の愛も抜き去られた自分には十分すぎる温かさ。それを与えてくれるのは無機物ばかりだと思っていた。
「もう呑まれんといてください」
聞き流したつもりだったが、脳が不足していたピースをはめて離そうとしなかった。
昨日の自分は呑まれていたのか、違う。いつからこうなったのか。
過去を思い出そうとしたが騒音が邪魔をしてくる。
視線を手元に移す。タバコは灰に飲み込まれていた。灰皿の中を掻き分けて先を押し潰す。
潰された部分を見てみようと思ったが、結果は分かっていた。
これは、手元にある箱の中の分までは受け止めきれそうにない。
仕方なく近くにある透明の小さなゴミ袋を一枚取り、灰皿の中身を移す。
縁に灰を残していたが、知らないふりをする。
ため息を吐いた。出てきたのは誰にも見えない淀んだ煙だった。
煙が消えていった虚無を見つめた。脳が思い出したのは酒を飲んだ時の思考を鈍らせる快楽だけだった。
静かに主張してくる床のゴミをかき分けて外に出た。
お疲れ様です。タケノハラです。
4話です。中盤に入ってきました。




