#3自転眩
アパートの正面から見て右端の一階に、自分の部屋がある。
ポストの中にある鍵を取って差し込む。古いため、回すのにはコツがいる。
その時だけは指先の感覚を集中させて、鍵が折れない程度に力を半回転させる。
酔いが覚めていなかったら、きっと自分は開けることができずに、ドアの前で寝てしまうのだろう。
中に入ると、足元には日が昇ったら出すゴミ袋が隅にポツンと置かれていた。
部屋の中では、空き缶が壁側から不揃いの高さで
層を成していた。
部屋の八分の一も満たさないそれは、小さいながらも、自分を支配していることを象徴するようだった。
靴下を脱ぎ捨てて布団へ潜る。
空き缶の山から領地を奪われて端に追いやられた寝床は、自分の帰りを待っていたかのように冷たかった。
世界から身を隠すために体を丸める。体力が底を尽きた自分は空の何かを埋める泥になって眠った。
自分の眠気をかき消すようにサイレンが通っていく音がした。頭は不思議と軽かった。
どこかに置いたスマホを取ろうとしたが、ただ床を撫でるだけだった。布団から這い出て、体を揺らしながらスマホを探す。
床、ローテーブル、台所を見たが黒い板は見つからなかった。玄関へ向かう。いつもより通路が長く感じる。
それはタバコに敷かれていた。屈んで取ろうとしたが、一瞬で頭が真っ白になって、音が無になった途端に腹の底からアレが押し上げてきた。
すぐそばにあるトイレに駆け込んだ。空気の通り道を塞がれて、必死に息を吸おうとしたが、体が前のめりになるだけだった。
何もしなくても出て来る様子を見ている自分と呼吸がうまくできずに苦しむ自分がいる。
綺麗な液体だけが流れていく。それと一緒に内側で残していたものが流れてしまう気がして、恐怖が背中を撫でた。
出し切った体は疲れ切って、足に力を入れる余力を残していなかった。便座に全身でもたれかかるようにして壁を呆然と眺める。
黄ばんだ壁紙に、細長い虫が這っている。黒い糸が動いているようだ。落ちていても、ゴミとも判別できない物体だ。
何匹かの集団が一つになろうと必死に集まっていく。一つ一つが交差していくが、それ以上の進展はなかった。
やがて諦めて四方に散っていった。その様子を見終えた時プツンと電源が切られた。
同時に幻覚を見ていたのだと気づかされた。
どれくらい寝ていただろうか。ふっと目が開いた。普段しない姿勢のせいで、体のあちこちが悲鳴を上げている。
便器の中にはまだあれはあった。記憶から消すように流して、スマホとタバコを取りに行く。もう一度屈んでも何も出てこなかった。
洗面台の前に立ち、水で口の中をすすぐ。鏡には血色の悪い肌をして、目の下にくまが染み付いている男の顔が映っていた。
何だコイツ
と思ったが、それは自分自身であると決定付けたくない小さな抵抗だった。
お疲れ様です。竹野原理仁です。
物語はまだまだ続きます。
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