真実
「失礼するよ。」弟さんが部屋に顔を出した。
「どうしたんですか?」秋良と九谷が驚く。
「温泉を楽しんで頂けて嬉しいよ…
さっきの話しは表向きなんだよ。本当の話は息子には聞かせたくなくてね〜
東京なんてロクでもないと教訓用にね。」風呂敷包みを持って弟さんが膝をつき頭を下げる。
「どうしたんですか!ヤメて下さい!」2人は慌てる。
「千鶴は、この旅館の為に人身御供になったんじゃよ!
父と母は散々甘やかして育てた長男が、すぐ手を出すわ暴れるわで手を焼いていたんだよ。母親にまで平手するような奴になってしまって。
アイツでは旅館が潰れてしまうと。
本来なら仲居を妊娠させたくらいなら、赤子だけ引き取って仲居は適当な男を見繕って嫁に出すんだよ、ここらでは。
兄も高を括ってた。
だが、親は勘当を言い渡し東京に追い出したんだよ。
千鶴はお目付け役であり暴力の受け皿として祝言(結婚)させたんだ。」弟さんが真相を話す。
確かにDVの人は、コミュニケーションが苦手なタイプが多い。自ら東京へ一旗揚げようなどと考える人間はいない。
家族の狭い人間関係の中で暴力を振るうのだ。
「じゃあ、その強姦されてるのをワザと皆で見過ごしていたんですか?」ゾッとするようは話だ。
それは確かに息子さん達に聞かせられない。仲居さんじゃなく経営者がワザと見過ごしたのだ。
「ワシは元々スペアとして生まれ育てられたからね。旅館のために。千鶴は多分分かっていたよ。だが、我が子のために従ったんだろ。
だから、東京で会うのが恐くてサッサと用事を済ませて帰ってきた。が…」弟さんが畳に頭を擦りつける。
「ずっと夢枕で『返せ〜返せ〜』と立つんだよ!
首を絞めて『兄貴と同じになれ!』って、それがもう1年以上続いてるんだ!
お願いだ!助けてくれ!」風呂敷包みを開けると、そこには小さな骨壺が2つと札束が入っていた。
「赤の他人にこんな事頼むのは身勝手と分かってる!
が、我が家が千鶴にした事を考えたら…一族皆殺しにされて旅館も廃業まで追い込まれそうで…怖いんだ!
東京で千鶴とこの子達を同じお墓に入れて欲しいんだ!頼む!
ウチに祟られないように!お願いだ!」弟さんが必死で頼む。
「えらく身勝手ですね…」九谷がため息をつく。
「人間は卑怯で身勝手で弱い立場の人間を虐げて遊ぶ残酷な生き物なんだ…まさに実践したんですね、この旅館の人は!」吐き捨てるように言うとプイッと外を向いてしまった。
「…分かりました。我が家も今は千鶴さんが暴れて大変なんですよ、実は。
生前、子供を探して家に戻って来てから行方不明になってるみたいで…
この子達をまだ探し続けて男性経営者を呪って、もう3家族も没落廃業させてるんですよ。」秋良が語ると弟さんは頭を抱えて「ヒィ〜〜〜ッ」と目を閉じる。
手首には数珠をしていた。南無阿弥陀仏と唱えだした。
「千鶴さんと約束したので、必ず母子を同じ墓に入れます。お宅のためではないです。我が家のためです。」と話した。




