9話
久しぶりの醤油のカップラーメンに心を浮かせ、麺の上にかやくと粉末を入れた。焚き火の火で沸いたお湯をカップラーメンに注ぎ、蓋の上に液体スープをのせ温めながら三分待つ。
「くうっ、三分が長い! 早くカップラーメンが食べたい!」
久しぶりのラーメンに腹がぐう、ぐう鳴る。
僕の腹時計は三分たったと、我慢できずにカップラーメンの蓋を開けて、液体スープのふうを切り麺の上に流し入れた。
この瞬間、醤油スープの香りが一気に広がり、僕の空腹をさらに刺激する。久しぶりの匂いに、ごくりと喉が鳴り準備しておいた箸を取り一気に麺をすする。麺が少し固いように感じるが、とても待ちきれなかった。
「ぷふぁ、ひさしぶりのラーメンは最高だ! うまい!」
このとき、無我夢中にカップラーメンをすする僕の背後に、庭の枯れた草をガサガサと踏み、何か近付いていた。僕はその音にも気付かず、カップラーメンを食べていた。
「いい匂いがするが。それは美味しいのか?」
「ん? ……んん? キジトラの猫?」
僕の背後から一匹の普通の猫より大きな、キジトラの猫が顔を覗かせた。
⭐︎
父上からいただいた辺境地の、誰もいないはずの屋敷に現れた一匹のキジトラ柄の猫。僕はカップラーメンを食べる手を止め箸を置いて、その猫を凝視した。
その猫は尻尾を揺らしながら僕に近付き、カップラーメンをのぞいた。
「ぬぬ、なんだ? この黒い汁? 魔女が薬を作るときに煮ていた、イモリの煮汁とは匂いがまったく違う、いい匂い。……細い黄色、これも初めて見るぞ。ねぇねぇあなた、これはなんですか?」
「これはね、カップラーメンという食べ物だけど、君も食べてみるかい?」
僕が元いた世界なら塩分だとか、猫に人間の食べ物はけして与えたりしないが。ここは異世界……まぁ異世界の猫でもラーメンは食べでいいかわからないが、ラーメンの匂いにゴウゴウ鳴るお腹の音と、次から次へと猫の口からだらだらと垂れ流れるよだれを見て、僕は食べるか聞いていた。
「えぇ? これを、俺っちも食べてもいいんですか?」
キジ猫の瞳が、嬉しそうにキラキラ輝いた。