61話
「あなた達、いつまで寝ているの? 天気もいいのだから、洗濯しなさい!」
聞き覚えのある声に、エアーテントの中から這い出る。すると目の前で、仮面舞踏会用の仮面を付けた貴婦人が、腕を組んで見下ろしていた。その隣には、メイド服を着て――なぜか紙袋を頭からすっぽりかぶった女性。
(あ、ああ……? ミーラお母様とメイドのキャシー?)
「ふふ、起きたわね。さあ、その汚いシャツを脱ぎなさい。キキ、脱がせなさい! その隣の猫はお風呂行きよ!」
「かしこまりました、奥様」
「え? ぎゃっ! ま、待って、待って! 自分で脱ぎます!」
「お風呂は嫌っす! 助けてっす!」
涙目で叫ぶラテと、シャツに手をかけられる僕。ダメだ、女性に脱がせられるのはさすがに恥ずかしい。ラテは飛び上がり、僕は両手を突き出して必死に抵抗した。
「子供の頃はお風呂だって、入れてあげていたのよ。なにを恥ずかしがっているの」
子供の頃だって、恥ずかしかった!
逃げ場のない庭をぐるぐると回って逃げるも、がっしりした体格の騎士の仮面を付けた男にあっさり捕まる。
(この騎士、ジール兄上だぁ!)
「離して! 自分で洗うから!」
「俺っちも、お風呂は自分で入るっす!」
「ダメよ。あなたが何日同じ服を着ているか、こっちは知っていますからね!」
何日って……ほんの三日じゃないか。
……三日はまずいか。だらしなくなった自分を自覚して、さらに恥ずかしくなる。
「だ、大丈夫です! この洗濯石鹸で洗いますから! だから先に着替えさせてください!」
前に使っていた石鹸が小さくなったからと、一日恩恵で手に入れた洗濯石鹸。前世でもお世話になった、頑固な汚れも落ちる優れものだ。
空高く掲げた、長方形の緑色の洗濯石鹸。それに、メイドのキャシーがぴくりと反応した。
「頑固な汚れも落ちる……? 本当ですか?」
「本当だよ。今からこの汚れたシャツを洗うから、見ていて」
☆
屋敷の部屋で新しい服に着替え、庭へ戻ると、ラテは持参された桶の中で大人しくしていた。
「魔法で温かいお湯を出したから、気持ちいいでしょう?」
「はいっす。このボディソープで洗ってほしいっす」
そう言って、ラテはテントから桃の香りのボディソープを持ってくる。……おい。それって僕のお気に入りのやつじゃないか。
(最近、減りが早いと思ってたら、ラテも使ってたんだね。いい匂いの日があったけど、全然気づかなかった……)
僕はアイテムボックスを開き、ステンレス製のタライと、プラスチックの洗濯板を取り出した。本当は手動の洗濯機が欲しかったけれど……どれも千円以上すると知って、断念している。
アパートの洗濯機は持って来られないだろうし、現実的な選択はこれだった。ステンレス製のタライと、プラスチック製の洗濯板。見た目は地味だけれど、十分に頼れる道具だ。




