6話
焚き火に水を入れたヤカンをかけて、好みのコーヒー豆を手に取り手挽きミルに入れて、レバーをゴリゴリ回して豆を挽いて粉にする。次にテーブルへ置いた、真っ白なコーヒーカップの上にドリッパーを置きフィルターをセットして、その隣にコーヒーポットを置いた。
「ちょっと待てよ。この豆が終わったら、僕好みのコーヒーが飲めなくなるな」
僕がいる異世界にはコーヒーがなく、紅茶が好んで飲まれている。この豆は転生前、僕の家にあったコーヒー豆で、毎日飲んでいたから残りが少ない。
そうなると、豆がなくなる前に種生成魔法でコーヒー豆を種に戻して、畑に植えるしかない。しかし、コーヒー豆は熱帯、亜熱帯気候の温暖な国で栽培されているはず。
「どうする?」
――ううん。いや、この屋敷には温室があるから、コーヒー豆の栽培ができないこともないか。
(神様、教えてください。コーヒー豆は温室でも栽培できますか?)
何かあったら、なんでも聞きなさいと言われているから僕は神様に聞くと目の前に画面が現れて、質問への回答が打ち込まれた。
温度と湿度を一定にして、外気の影響を抑える。土の温度を一定に保ち、日照や長雨などの環境から守る。
コーヒー豆栽培に適した環境は年平均20℃前後の温暖な気候、適量の降雨、強すぎない適度な日当たり、水はけの良い土、霜が降りないこと。
(……これは、ネットで調べたような内容だな。でも、ネットがない今なら、これで助かる)
僕が住む異世界は二重太陽のせいで昼間が長く、夜が短い。春、秋のような温暖で過ごしやすい日、夏のように暑い日もくる、異世界の気候はそれの繰り返しだ。
(冬がないから寒くないから、魔法を使って温室を調節すればいいか)
沸いたヤカンのお湯をコーヒーポットに移して、少し冷ます。コーヒーカップ上のドリッパーにセットしたフィルターに、いま手挽きミルで挽いたコーヒー粉をいれた。
お湯を豆に注ぎ、じっくりとコーヒー粉を蒸らす。ふわりとあたりに、お湯を含んだ粉から香ばしい香りが立ちのぼる。
(ほっ、コーヒーの香りは落ち着くな……)
蒸らした豆にお湯を注ぎ、ゆっくりとドリップが終わるのを待ってから、カップを手に取る。立ち上る湯気に鼻を近付けると、懐かしいコーヒーの香りがした。
「ふうっ、いい香りだ」
久しぶりに淹れたてのコーヒーを一口飲むと、ほろ苦さ、わずかに酸味が口に広がった。
――はぁ、うまい。この、ゆったりした時間を利用して本を読むのもいいが……すっかり忘れていたステータスを見るかな。