52話
神様の一日一回の恩恵は、本当にありがたい。欲しいものはいくらでもある。コーヒー豆千円分、ポリ袋、調味料、畑にまく肥料や野菜の種。今日の僕は、その中でも特に好きな、冷凍牛丼をお願いした。
畑で育てた米をメスティンで炊き、鍋にお湯を沸かして冷凍牛丼を温める。ラテと、ひとつを分け合うだけでは足りないので、湯を注げばすぐ食べられる、袋ラーメンも用意した。
「うひょお、いい匂い。大好きな牛丼が食べられるなんて! 卵と紅生姜がないのは残念だけど、牛丼たのしみ~!」
「俺っちも早く、牛丼が食べたいっす!」
ラテも一度、牛丼を食べてから大のお気に入りだ。二人で鍋を見つつ、米が炊けるのを持っていた。そこに近づく足音。
「ちょっと、牛丼って、ご飯の上にお肉を乗せるやつよね?」
「あ、チェルシー? 久しぶり」
「お久しぶりっす」
ゴミ箱を渡してからひと月。チェルシーが久々に屋敷に姿を現した。しばらく来られなかったのは、少し変わった薬の依頼を受けて、その薬草を探しに出ていたかららしい。
「チェルシー、スライム液入りのゴミ箱、ありがとね。すごく便利だよ」
「ふふ、それは良かったわ。私の方も、ようやく依頼も終わったの。まったく、肌をキレイにする塗り薬を作れだなんて……月の雫草を探すのが、本当に大変だったわ」
「月の雫草?」
「ええ、詳しい場所は教えられないけど、とても貴重な草よ。その草から採れる雫を肌に塗ると、すべすべになるの。今回はその薬草を採りに行ってたの」
「そんなすごい薬草があるんだ。僕のスキルで『月の雫草の種』を生成できないかな?」
「さすがノエール様、やっぱり頼りになるっす!」
「種は欲しいけど……同じ環境を再現しないと、その薬草を育てるのは難しいと思うの」
コーヒーの木や、稲を育てたときのことを思い出す。だが、育てられる可能性はある。でも、何度か実験が必要だろう。――それもまた面白そうだ。
「チェルシー、その月の雫草、少し分けてもらえる?」
「いいわよ。塗り薬を作った後だから、数はそんなに多くはないけど」
「ありがとう、少しで大丈夫」
「今は手元にないから、明日持ってくるわ」
僕たちは牛丼を分け合い、袋ラーメンも一緒に食べた。食後にはコーヒーを飲み、チェルシーは力が湧いてきたと笑って帰っていった。ラテは畑で元気に働き、ステータスMAXの僕は、神様にもらった、コーヒーをのんびり味わっていた。
「さてと、片付けを済ませたら、ラテの手伝いに行こうかな」