2話
朝食を終えた僕は部屋へと帰り、ここを出て行く準備を始めたと言っても、既にいるものは神様に貰ったアイテムボックスの中にしまってある。
どうせ、いつかはここを出て行くつもりだったから、必要な衣類、食料品などを誰も気付かない程度に、十五年の間に貯めさせてもらっていた。
異世界の文字は神様のチートで読めたが、魔法、この世界の事は兄上、弟と違って出来が違うからと、家庭教師は雇ってもらえなかった。だから自分で、この世界のこと、必要なことは覚えるしかなかった。
――まぁ記憶魔法が使えて、本を覚えるのは楽でよかったけど。
いろんな本を書庫で記憶していく中、偶然手に取った歴史書に記されていた。僕がいる、このファンタジーの世界では約三百年ごとに、世界を滅ぼす魔王が復活するようだ。そして再来年には魔王が復活する。
そのため、王城に住む勇者の血を引く王家は、新たな勇者を迎えようと勇者召喚を行う。この勇者召喚を手助けをするのが、この国の守り神であの神様だった。
召喚には莫大な魔力が必要。召喚をした者の中に勇者に向いていない人物がいては面倒だし、召喚をスムーズに進めるため、神様はあらかじめ才のある勇者候補を探していると神様は話した。
――何度か失敗して、この方法に変えたとも言っていたよな。
今回、神様は時間もかからず三名の、才のある若者に目星を受けた。勇者候補探しが難なく終わり、神様は余った時間を使って、綺麗な日本の景色を見ようと散歩をしたのが運の尽き。時期的に、咲きほこる桜に心を奪われ道に出てしまい、僕が運転する軽バンの前に飛び出てしまった。
『とても、大変なことをしてしまいました』
短くカットされた白銀の髪と赤い瞳、見た目は少年のような神様は僕に何度も頭を下げた。
ここでいいと引いてしまっては、これから始める、何も知らない異世界生活が不安だ。いままで見てきた主人公達のように僕もチートをもらおうと、神様にお願いした。
『こちらが悪いんです。望むようにいたします』
初めから折れた神様に前にも言ったが、後腐れのない地位といまから生活をする異世界を知る時間、便利なスキルがいくつか欲しいと伝えた。
僕はバレたくないからと、いままでアイテムボックス、記憶魔法、空飛ぶ魔法以外の魔法はまだ使用していない。要は変わっているスキルを、持っているとバレたくない。
――それを使用すればこのまま家族と離れず、一緒に過ごせたと思うけど、変わったスキルのせいで目を付けられたり、家族に迷惑もかけたくない。
何より僕は、異世界でものんびりとキャンプがしたい。
軽バンを持ってくるのは無理だったが、僕が持っているすべてのキャンプ道具、家にある私物は神様に頼んで、すべてアイテムボックスの中にある。買ったばかりで使用していない、キャンプ道具たちを早く使いたい。
次のキャンプにと、奮発して買って冷凍した分厚い肉を、うまいタレ、調味料で焼いて食べたい。寂しい気持ちから、新しい生活へのわくわくする気持ちが勝ち、僕は魔法で姿を消して練習した空飛ぶ魔法を箒にかけて、それに乗って飛びたった。
その僕の姿を、家族みんなが見ていることも知らずに。