12話
これに関しては考えるのはやめようと、温まったポリ袋入りのご飯を取り出した。レンチンと同じようにホクホクに温まったご飯、僕はそれを二人分に分けカップラーメンの残り汁の中に入れ、買い置きの感想ネギを振りかけ百均で買ったレンゲスプーンを置いた。
――しかし、このレンゲスプーンって安くて便利だよなぁ。
「さぁ、食べてみて」
「はい、いただきます」
二人でカップラーメンの残り汁ご飯を食べる。醤油ラーメンの汁を吸うご飯、それをかき込む。ラーメンの麺とは違い、醤油の味に染まるご飯はこれまた美味しい。
「うにゃ? ラーメンとは違う美味しさです。このご飯という食べ物はもちもちしていてとても美味!」
猫は気に入ってくれたようだ。カップラーメンの残り汁にはほかにもチャーハンにしたり、おじや風にしたり、レンジがあれば卵を入れて茶碗蒸しにもなるが……塩分の摂りすぎは危険だ。
「体には悪いが、これはやめられねぇ」
「俺っちも、やめられません!」
「意見が合うねぇ」
「あいますねぇ」
昔からいた友達のように語る僕と猫。この猫をこのまま消してしまうのは寂しいな。一人キャンプもいいが、癒しも欲しいし、語り合える仲間もいれば楽しくなる。
「夜はご飯、インスタントの味噌汁と白菜の漬物、生姜焼きを作ろうと思うんだが、どうだろう?」
その僕の言葉に、まんまんな瞳をさらに丸くさせる猫。
「にゃ、にゃ、にゃ? 聞いたことがない食べ物ばかり……うわぁ~、ぜひ食べたいです」
「わかった。ラテ、今日からよろしく」
「ラテ? 俺っちの新しい名前? ああ、俺っち……消えなくていいんですか? 俺っち、たくさん失敗もします。寝坊もします。食いしん坊です」
「失敗? 寝坊? 食いしん坊? どれもいいじゃないか。僕も朝はゆっくり寝てるし、失敗もするし、食べることは大好きさぁ!」
僕が手を出すとラテが大粒の涙を溜めながら、小さな手で握り返してくれる。僕は伯爵家を追放された日にかわいい相棒を見つけた。
⭐︎
ここは、どこかの森の一軒家。黒いローブを着たおさげの見た目が少女は、声を上げた。
「茶々丸、この新しい薬草の分析をして」
「茶々丸? おや、ご主人様の大切な物を壊して、名前を取られて、追い出された名無しのことですか?」
足元にいる黒い猫にそう言われて、少女は思い出す。
「あ、いや違う。茶々丸は名無しじゃない。……そうだ、反省するように、名前をちょっと取っただけだ!」
少女は師匠からもらった、大切なコップを茶々丸に割られて怒り、名前を取り上げ外に放り出した。もちろん少女は名前を取り上げて、三十日のあいだ茶々丸を放置すれば消えてることを知っている。
「茶々丸が反省したら、名前を戻そうと思っていたんだ」
「おや、反省ですか? 外でずっと名無しが「ごめんなさい」「許してください」と言っても無視をしていたのに? ご主人様、いいえ魔女の使い魔として呼ばれ、名前を消され捨てられて、あと数時間で存在が消える。ご主人様はそれまで、名無しを放置していたのです」
黒猫の使い魔に図星を言われ、魔女の少女は言葉をつまらせる。
「うぐっ、いや、その、新しい薬草の栽培に、夢中になって茶々丸の名前を消したことを忘れていた……でも、今気付いたのに茶々丸の姿がどこにも見ない」
「いないなら、名無しは諦めて森を出たのではないでしょうか? あと数時間で消えるのなら、自分は違う景色を見たいと思います」
魔女はぶんぶん首を振る。
「いやだ。茶々丸は師匠から譲り受けた、特別な力を持つ使い魔だ。わたしの大切な……」
「それをいうなら。なぜ? 名無しの名前を取り、外に出したのはご主人様ですよ」
あわてた魔女は探してくると箒を持ち、家を飛び出した。それを見送る黒猫は「ふふ、どうせ時間内には見つかりませんよ。これで、ご主人様は僕だけのご主人様」だとほくそ笑んだ。