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バックヤード

作者: 遠野なつめ

家電量販店のお客様カウンターの右側後方に、アルミ製の両開きの扉がある。売り場とバックヤードを仕切るもので、台車を押したまま出入りできる構造。目線より高い位置に曇りガラスの小窓があるが、向こうの様子を見ることはできない。


扉の横には「関係者以外立ち入り禁止」の貼り紙がある。


無関係な者が立ち入った場合、その者は即座に「関係者」となり、バックヤードを含む店舗の構造や商品の発注、顧客への対応、清掃、その他の業務フローを完全に理解する。


この店舗は顧客の評価がたいへん良く、Mapアプリのクチコミでは「店内が清潔で気持ちが良い」「目当ての売り場への案内がスムーズ」と好意的な書き込みが並んでいる。評価平均は4.9と、同じチェーンの他店と比べて明らかに高くなっている。


────


大学生Aは、この店舗を偶然訪れた際、友人Bが従業員のエプロンを着けて商品を並べているのを発見した。Bは大学生活の傍ら、派遣会社から単発のアルバイトを引き受け、各地のスーパーや家電量販店で福引きやティッシュ配りを行っていた。


AとBは同級生だったが、Bは数か月前に音信不通になり、大学にも姿を見せなくなっていた。量販店で働いているとは聞いていない。


AがBを呼び止め、大学に来なくなって心配していたと伝えたところ、Bははっきりと「自分はここの店員である」と返答した。Bの様子を怪しく思ったAは、Bを外に連れ出して話をしようとしたが、店舗の主任から、スタッフは勤務中で外に出られないのだと制止された。


Bがカウンター付近で品出しの作業に戻った後、主任はAに「用件をお聞きしましょうか」と声をかけ、カウンター後方のバックヤードに誘導しようとした。


Aが両開きの扉の近くに立ったとき、Bは突如Aのほうを振り返って唇を動かし「帰れ」と口にした。店員としての明瞭な受け答えとは違い、絞り出すような苦しげな声音が耳に届く。


Aは一瞬迷った後、主任に「いえ大丈夫です」と答え、踵を返して店の外に出た。主任は追ってくることなく、Bとともに両開きの扉の奥に消えた。

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