召喚勇者は魔王城へ挑む!
誤字脱字ありましたら優しく教えてください……よろしくお願いします。
ある日この国に勇者として召喚された。
最初はなんで自分なんだよ、って理不尽さに嘆いた。でも、魔物や魔族を倒し続ける内に大切な人や物が沢山できて……今では守る力がある事をこんなに嬉しく思っている。
眼前に聳え立つ魔王城は、まるで今までの魔の氾濫など何も無かったかのように不気味に静まり返っている。
少し足が震えるが、未だ人類は戦線を維持しながら背後を守っている。
普段行動を共にしている部隊のメンバーもここまで自分を連れてくる為に大きく消耗して後退し、魔王城へは自分1人で挑まなければならない。
重く大きい扉を身体強化の魔法を使い自力で開ける。
そこには大きく開けた広間があり目の前には2本の緩やかにカーブを描いた階段が上の階へ続き、その先には荘厳な扉が見える。
「あそこに、魔王がいるはずだ……」
未だ、しんと静まり返った広間を通り抜け扉の前に立つ。ここまで長かった。ここが最後の、戦場になる。
大きく軋む音を立て、中を警戒しながら入る。
罠や奇襲は特に無いようだが、やはり静まり返っていた。
「私は勇者として異界より召喚された者!人類の安寧の為、魔族の氾濫を終わらせる為参った!」
意を決して大きく息を吸い込み、今までの気持ちや今の決心が無意識に声に乗り響き渡った。
……が、やはり静まり返った大きな広間には豪奢な椅子一つ鎮座するだけで誰も返事をしてくれない。
気配察知とソナーという範囲探知魔法を使うと、丁度部屋の奥、あの椅子の斜め後ろの扉を開こうとする気配を見つけた。
ついに、来るのか。
剣を握る手に力が入る。
しかし、入って来たのは、下級魔族一匹だった。
「そこの、魔族の……、えっと」
声を掛けると少し虚ろな目で此方を見て少し驚いている。
「あの、ここに何の用でしょうか?」
下級魔族は吸血鬼のようだ。
「吸血鬼か?」
「?はい、と言っても下級ですが……。それで、どちら様で、何の用でしょうか…」
「私は、この世界に勇者召喚された者。魔王と一騎討ちにて魔族の侵略を止めるよう……訴えに来た」
そこまで言うと吸血鬼はへらっと笑いゆっくりと話し出した。
「それは、ここまで大変でしたでしょう。ですが、残念ながら魔王はおりません。この城は静かでしょう?私しか、おりませんから。」
「……どういう事だろうか?」
「長くなりますが……そうですね、良ければ聞いてください。全く、馬鹿な話なのです。7年前、この魔王城はとある事件に揺れました。臣下達や宮仕えの者達が、体調を崩し始めたのです。それはもう、トイレに行列ができ、洗面所や訓練所では嘔吐や腹痛、中には内臓が溶ける者もおりました。」
7年前、魔族が目撃され始めた時期だ。ってか上級魔族でも、体調崩すんだ……?ってか、内臓が溶ける??え?上級魔族が?理不尽の権化が?
「……上級魔族は毒耐性や魔法耐性が高いのでは?」
「流石に、戦線に出てない単なる貴族の子やメイドは耐性があっても、四天王や直属の配下程ではありませんよ。それで、魔王陛下は早急に事態の収拾へ努めました。そして、分かったのです。」
一体……何が……
「……スライム氏でした」
えっ?
「えっ?」
しまった、つい、
「ははっそう思いますよね。実は、廃棄処理に使っていたスライム氏が、ふざけて夜中に厨房へ入り皿や調理具で遊んでいたそうです。スライム種は強化種でも幼児くらいの知能しか有りませんから、遊びのつもりだったようです。しかし、強酸毒がそれらに残ってしまいました。」
うわぁ……スライムって存在自体は弱いけど酸や毒がえげつないんだよなぁ……ほんとなんでも溶かすし……
「魔族でも上級魔族は1ヶ月程体調を崩す程度で済みましたが、下級魔族は多く命を落としました。そして、その責任は魔王陛下へと矛が向きました。しかし、本来スライムや城の衛生管理を管轄していたのは王弟殿下です。つまり、魔王陛下にイチャモンつけて擦り付けました。ですが陛下はその保障を文句一つ言わず手厚くしてくださいました。」
……なんて言うか、魔王陛下、良い人過ぎないか?いや、臣下や宮仕えの事を大切に出来る素晴らしい指導者……いや魔王ってなんかこう……伝え聞いてたんと違うじゃん……
「しかし、下級魔族達の間で、魔王陛下への不信感が募ってしまったのです。そこはもう、宮仕えに子を出していた親達の行き場の無い悲しみや怒りだったのでしょう。しかし、第三者はそうは思いません。次第に魔王城を離れる魔族達が出始めやがて上級魔族のみになりました。」
「しかし、今はキミだけだろう……」
「はい、職を多く失った下級魔族達は、この地を離れましたが、食い扶持を持てず次第に人族を襲い始めたのです。下級魔族は上級魔族ほど、知能が高くありませんし、割と短絡的な所が多いですから。そして、その暴走を止める為上級魔族が魔王陛下より派遣されました。しかし、下級魔族は上級魔族へ反旗を翻し、戦いになりました。そんな事が繰り返される中、魔王陛下は心を痛め、王弟殿下と何とか持ち直そうとご自身で戦地へ向かいました。」
そういや、何度か会ったな……会話はした事ないけど、下級魔族を人族諸共殺戮して……
「陛下のお力は強大です。逆に言えば強すぎるのです。動きを止めさせるために放った魔法は下級を殲滅してしまう程に。指先に灯す火で良いのにドラゴンブレスぶち込むみたいなものですね。」
うわぁ……じゃあもしかして……
「その際、人族の兵士を巻き添えにしてしまい……人族から宣戦布告がなされました。」
あぁ、つまり、
「スライムのイタズラで、下級魔族が反乱を起こして、魔王自ら止めに入ったら関係ない種族をたまたまうっかり、巻き込んで、戦争になった……?」
「そういう事です。しかも、下級魔族達は自主的に略奪や村を襲ったりしてましたから、人族から見れば魔族の侵略に見えますよね……魔物達も訳も分からず魔族達が自分達の住処に入ってきて混乱し人族の住む森近くまで迷い込んでましたし。上級魔族達は自分の領地や家族を守るため引き篭ってますし。」
うわぁ、ドミノ倒しみたいに連鎖して、結果的に歴史に残る大戦線に発展したとか、怖くて言えねぇわ……なんて後方に報告しよ……
「それで……その、魔王や魔王の弟は……」
「魔王陛下はお心を病まれて寝込み、王弟殿下は自らに1000年の封印をなさいました。」
ええええ……じゃあ、これって、、、
「「単なる下級魔族の暴走」です」
声が重なって思わず目が合う。
少し気まずい……。
「少し、考えさせてくれ……」
えっ?どうするよ、魔王不在で、下級魔族が暴走してて、勝手に戦争起こされて魔王首取ったとしても戦線終わらなくね?侵攻じゃないんだもんな、、、寧ろ魔王自ら動いてもらわないと収拾つかなくね?なら、それなら……
「魔王城、再建、しかないか……」
「えっ????」
「いや、再建するしか、ないかなって……魔王しか事態の収拾付けられないだろうし……」
「いや、え???」
「最後の戦いは、政治と統治かぁ……とりあえず魔王、陛下に会えないか?」
未だ良く理解できてない吸血鬼の顔をみて思わず苦笑いになった。
人類を救うために、魔王を、魔王城を再建するかぁ……。
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