54 僕の名はアルベール(アルベール視点)
僕の名前はアルベール・デュフォール。デュフォール侯爵の私生児だ。
別にデュフォール侯爵家に思い入れはない。
デュフォール侯爵は僕のことを毛虫以下の何かとしか思っていない。欲しくもないくせに、仕方なく作った子供、最愛な妻へのやむを得ない裏切り、僕の存在自体、デュフォール侯爵からしたら痛恨な対象でしかない。
でも別にどうでもいい、僕も父親に毛ほどの興味も思い入れもないから。
こんな僕でも、昔、父親に執着していた時期があった。
月に一度だけ、本家の屋敷に父親と短い面会をする機会があった。僕はその日のために、毎月毎月長文の学習日誌を用意して、父親に自分は聞き分けのいい、頑張り屋のいい子だとアピールしてきた。
でも、その日誌を父親が読むことはなかった。
読むところか、父親に手渡しできた月すらなかった。
父親にとって、この面会はただ僕の生存を確認するだけのものだろう。
それでも嬉しかった。
一度も母親と会ったことない僕からしたら、父親は僕の全てで、どうしても父親に関心を持って欲しかったのだ。
父親に冷たくされ、毎月毎月面会後には別館で一人泣いていた。
そんな僕を見兼ねて、時々遊びに来てくれた平民の子供に、逃げ出して彼女の家の子供になろうと情けをかけられたこともある。その誘いがすごく嬉しくて、親に捨てられた僕でも迎え入れてくれようとする人間がいると、かなり心を動かされたが、その時の僕はまだ父親への執着心を捨てられず、彼女の誘いを悩みながらも断った。
僕は聞いたことある。父親には故侯爵夫人との間に生まれた最愛な一人娘、僕からしたら異母姉に当たる人物がいると。
その姉は体が弱く、侯爵家を継げられないから、家臣たちの圧力に負けて、父親は僕という私生児を作ったとも聞く。
父親の愛を一身に受ける姉が羨ましくて、どんな人か一度見てみたいと密かに思っていたが、僕の存在は姉にとって極秘で、絶対姉と顔合わせをするなと、いつも冷たくて恐ろしい父親に、今までで一番鬼の形相に言われたことあるから、僕は姉に会えたことはなかった。
しかし、その唯一の面会も僕が5歳の年に崩れてしまった。
毎回姉が外出でいない日を選んで面会していたが、その日は姉が行く予定だった茶会の主催者が当日に体調を崩され、申し訳なさから、侯爵家に連絡入れる前に、主催者側が馬車を手配して、姉を侯爵家に返してしまったのだ。
お詫びに主催者が持たせてくれた菓子はたまたま父親の好物らしく、帰宅した姉は使用人たちの慌てる顔にも気付かず、うきうきと父親の執務室に入ってしまった。
そして僕は初めて、「姉」と対面した。
ピンクローズの髪とライムグリーンの瞳、僕とは似ても似つかない、柔らかい雰囲気の美人だった。
感嘆も束の間、僕を見た姉は、最初は困惑を浮かべていたが、僕の父親と瓜二つの顔に、徐々に僕の正体が分かったようで、どんどん顔が蒼白になっていた。
必死に僕を隠して説明しようとした父親だったが、その努力も虚しく、姉が発作を起こして、その場で倒れ込んでしまった。
その日を境に、僕はハズレの別館に半分幽閉されるようになった。絶対別館から出るなと言われたにも関わらず、僕はどうしてもその日に見た姉が気になって仕方がなかった。
気配を消し、本家屋敷に潜入した。庭のブッシュに隠れて、ほぼ毎日にように姉を観察していた。
故侯爵夫人の忘れ形見、父親が大事に大事に屋敷で育てている一人娘、僕には見せたことのない優しい顔を、父親は惜しみなく彼女に見せていた。
でも不思議と嫉妬は湧いてこなかった。
庭に咲くどの花より鮮やかなピンクローズの髪に、空も霞んでしまうようなライムグリーンな瞳、陽の光に当てられキラキラと輝く陶器のような肌、僕は生まれて初めてこんな綺麗な人を見た。
そりゃ僕は彼女に勝てるわけないよ。
幼ながらに腑に落ちてしまった。姉は父親と最愛な夫人との間に生まれた愛娘で、僕は圧力に押されて仕方なく作った憎き存在なのだと。
それでも、僕は姉に惹かれてしまった。
姉は発作以来、僕のことを忘れてしまったみたい。それをいいことに、屋敷の人々は今まで通り、僕をなかった存在として、姉から匿った。
本当は別館から逃げ出してはならないし、ましては屋敷に来て姉を観察するなんて、バレたら今度こそ父親に殺されるかもしれない。それでも抑えられず、毎日通っていたら、とうとう姉に見つかってしまった。
あ…僕はきっと父親に殺される…
死すら覚悟した僕だったが、姉は僕に言った。
「大事な弟だから、行かないで」と。
僕は…姉様の弟で居てもいいのですか?
クライマックスまでに必要なアルベール目線の話、ちょっと今までの話と被る内容でくどく感じるかもしれませんが、しばしおつきあいください(o_ _)o




