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46 エルフの歴史

 エルフ島で人間が自由に行き来していい観光地はとても少なく、特に中央神殿は人間に対して忌避しているため、聖獣の情報を調べるにも、なかなかハードルが高い。

 比較的に人間に寛容な港近くの書店に出向き、エルフ国の神殿や宗教にまつわる様々な書籍を買い漁り、この一週間はほぼ毎日、カフェでルイ殿下とともに書籍の内容を確認していた。

 エルフというのは、大昔人間大陸に生活していた少数民族で、彼らは他の人間と違い、「無の魔法質」を持つ人々だった。生まれつき、使える魔法の種類が魔法質によって定められた人間と違い、エルフの人たちは自然の中からさまざまな魔力の流れを感じ取り、それを受け入れることで、自身の魔法質をその場その場で変化させることができる。

 例えば、川に入り、水の魔力を感じ取れば、水魔法を使用できるし、土に触れ、土の魔力を感じ取れば、土魔法を使用できる。ある意味、万能の魔法質とも言えるが、エルフの魔法質には弱点がある。それは自然豊かな所でなければ、いくら魔法の量が多くても、魔法を使用できないことだ。そのため、エルフには強い自然信仰が根付き、人間社会のような工業化を受け入れられなくなったエルフの祖先たちが、海を渡ってエルフ島に移住した。


 「エルフの魔法質は人間と異なるというのは、セレスタンでも習ったことあるが、無の魔法質とは実に興味深い」

 「そうですね、人間には全種類の魔法質を持つ治癒魔法師がいますし、逆に全ての魔法質を持たない、無の魔法質の少数民族が存在していても、おかしくはない話ですわ」

 「しかし妙だな、ここに書いてある、<神に祝福されし愛し子はありのあらゆる魔法を使うことができ、時には人の病を治癒することもできる>って、無の魔法質は他の魔法を取り込むことはできても、治癒魔法は全種類の魔法質を統合したもので、一度全種類の魔法質を取り込むことも可能なのか?」

 「神に祝福されし愛し子…」

 前世読んだ小説の中にも出てきた、愛し子という単語に、私も疑問を持った。

 確かに、エルフ国には治癒魔法の使い手がいないから、医薬を発展させてきた歴史がある、もし無の魔法質を持つエルフが一度に複数の魔法質を取り込むことができるなら、遠の昔に治癒魔法を使ってきたはずだ。


 「ルカ様、この<神に祝福されし愛し子>というのは、エルフたちを率いて、海を渡って移住したリーダー的な存在ですよね?」

 「ああ、現在でいう大神官的な立場だろ」

 「その大神官というのは…どのように選出されるのか、関連した記録ありましたか?」

 「いや…僕が閲覧した限り、神殿内部の人事に関する資料は全くなかったな」

 「そうですか…」

 愛し子っていうから、何か魔力過多症のヒントがあるかと思ったけど、そう簡単に神殿の中枢に関わる資料が手に入るわけないか…


 「リリー、今日もだいぶ疲れただろう、あまり無理せず、今日はもう宿に戻ろ」

 「あ…うん…でもルカ様、私本当に体調いいんです、エルフ島に上陸してから、いつもの怠さが嘘のように消えたんです」

 これは本当、もしかしたら久々の日本食が体を癒したか?と考えたくらい、エルフ島に上陸してから一度も体調悪くなったことがない。

 「だとしてもだ、港の遊船には治療師がいるとしても、ここで発作を起こしたら大変だ、何より僕は君が苦しむ姿を見ると心が痛むんだ、今日はもう戻ろう」

 思わずドキッと赤面してしまった。ルイ殿下のこういう不意打ちが本当に心臓に悪い。

 「う、うん…わかりました」


書籍を片付け、いつものように自然と荷物を持ってエスコートしてくれるルイ殿下に、心が揺れ動かされるのは、きっと仕方ないことだろう。

王子と令嬢ではなく、ただのカップル同士、遠い国で、誰も私たちのことを知らない。

互いの手を取り合い、まるで世界はこのまま二人だけになってしまったように…

解決しなければならない問題は山積みなのに、セレスタンに戻ればまた歯がゆい距離に隔たれてしまうのに、ただ、もう少しだけ、ルイ殿下と二人きりでいられるこの時間が長くなればいいと、心の底で願った。

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