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43 イヴァンナさん

 「「……」」

 予想外のことで、二人とも無言になってしまった。

 

 「心配しないでくれ、リリアーヌが嫌がることは何もするつもりないし、そもそも君は未成年だ、僕はソファーで寝るから、君はゆっくりしていいよ」

 そう言いながら、ルイ殿下は手際よく屏風を広げ、ベッドとソファの間に軽く仕切りを作った。

 きっと私の反応があまりにもうぶすぎたから、気を遣ってくれたのでしょう…


 「いえ、私がソファーで寝ますから大丈夫です、ほら、殿下は体格もいいですし、ソファーでは窮屈でしょう」

 宿屋のソファーは王宮や侯爵邸にある豪華な大きいものではなく、一般庶民のお家にもありそうな、せいぜい3人がギリギリ座れる大きさだ。この2年間で大きく成長されたルイ殿下が寝るには小さすぎて、きっと足が浮いてしまうだろう。


 「いえ、どうせ寝れないだろうからいいんだ…」

 「?」

 寝れない?あー、きっと前世一般庶民だった私にとってこの部屋は清潔でいい部屋だけど、生まれつき王子様のルイ殿下にとって、こんな庶民の部屋なんて寝れそうにないだろう。


 「とにかく僕はいいんだ!リリアーヌはベッドで休んでくれ!」

 半分見るやり押し込まれた形で部屋のベッド側に座らされて、ルイ殿下は屏風の裏に隠れてしまった。

 そこまで言われたら、私も殿下のメンツを潰すわけにはいかない。素直にご厚意に甘えることにした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 宿屋での夕食は私の度肝を抜いた。

 なぜなら、あったのです!白いご飯があったのです!!


 「こ、これは!!!」

 「あ、これはね、米って言ってね、人間さんたちはあまり食べないみたいけど、美味しいから食べてみてくれ」

 アドルフさんは宿屋の主人だけでなく、宿屋の食事を作るシェフ的な役割も担っているそうだ。

 次々と出された食品に白いご飯だけでなく、野菜の煮物、なんとお味噌汁まである!

 もう食べることはないだろうと思っていた日本食に感動して涙出そうになりながら、アドルフさんの手料理を堪能した。


 「リリアーヌはエルフの食事が気に入ったのか?」

 「ええ!とてもおいしいです!!」

 私と違って、殿下は食べなれない味と食感に困惑しているようだが、普段食の細い私が進んでご飯を食べているを見て、積極的に味わおうとした。


 「お嬢さん珍しいね、人間はエルフの食事が口に合わない人が多いのに、まるで日頃から食べていたようだ」

 鋭い…転生する前まで本当に毎日食べていた…

 「お嬢さんがわしの手料理をこんなに美味しそうに食べてくれて、作った甲斐があったわ、あはははは」


 「パシャン!」

 大きな音がして、振り返ったら、食事を運んでいたイヴァンナさんがトレーを落としてしまい、皿を割ってしまった。


 「!イヴァンナ!怪我はないか?」

 アドルフさんは急いでイヴァナさんの様子を確認しに行った。

 「え、ええ…少し手に力が入らなく…パパごめんなさい…」

 「いいんだ、後ろで休んでくれ、わしが後で食事を運んであげるから」

 幸いにも落とした皿や食事はゲストにかかっていない。アドルフさんはゲストに謝りながら、素早く掃除をして、新しく配膳を始めた。


 「なんだか…様子がおかしいですね、イヴァンナさん」

 「リリーはそう思うか?僕は妊娠中の女性の体調はよく分からないが、母上が双子の弟妹を妊娠していた時も、吐き気で具合悪そうにしていたよ」

 確かに、妊娠で悪阻や浮腫みに悩まされるのは、多くの妊婦さんが経験することだが、イヴァンナさんは明らかにむくみ具合が尋常ではない。

 むくみによって足の皮膚が引きずられて、皮膚の色も蒼白している。さらにまだ妊娠中期で、お腹の具合もそれほど大きくないのに、動くことすら億劫そうで、息切れしている。おまけに先ほど手に力が入らないと言っていたし…


 「心配なら後で様子を見に行きましょうか」

 真剣にイヴァンナさんの病状を心配している私を見て、ルイ殿下はお見舞いを提案してくれた。

 「ええ、そうしたいですわ」


 二つ返事で答えた私を見て、ルイ殿下はいつもの優しい微笑みを見せてくれた。

 「リリーはリリーだね」


 殿下といるにも関わらず、自ら首を突っ込んで余計なお世話を焼こうとしているのに、こんな私を殿下は微笑みながら受け入れてくれた。

 胸の奥が、何か暖かいものを飲み込んだかのように、思わず顔を赤くした。

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