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42 エルフ島に到着

 エルフ島への旅は長いけれど、かなり快適だった。

 ワーズ航海事業の一番大きい遊船を使い、船上には王宮専属の各種使用人から高級シェフが乗船しているだけでなく、贅沢にも王宮治療師まで付き添っている。

 最初は初の船便にこの体が耐えられるのか不安もあったが、意外にも快適すぎて、乗船してから一度も発作を起こしていなかった。


 船内は広いとは言え、できることはやはり限られている。

 ルイ殿下は毎日午前中、デッキにて騎士たちと剣の鍛錬に励んだり、魔法師たちと魔法の練習をしたりしているが、リリアーヌはほぼ毎日読書だけしている。

 幸いにも、ルイ殿下が数多くの専門書やら小説やらを用意してくれたおかげて、むしろ充実している。

 そして、毎日昼食を共にしてから、二人でお茶する慣例ができて、こうしてみると、確かに恋人同士の旅行みたいだ。


 「明日にはエルフ島に着くみたいね」

 いつの間にか1ヶ月が経ち、目的地のエルフ島に近づいてきたことをルイ殿下から知らされた。

 「一応身分を隠して行くから、リリアーヌ、これを付けてくれ」


 そう渡されたのは一見シンプルの指輪だった。

 指輪を指に嵌めてみたら、髪色と瞳の色が変わり、ピンクローズ色だった髪はブロンドに、ライムグリーンの瞳は深みのあるオーシャンブルーに変わった。変わったのは色だけなのに、かなり別人の印象になった。

 ルイ殿下もお揃いのペアリングを着用され、濡れガラスのような黒髪は、暗めの茶髪に変わり、藤色の瞳は紫のかかったブラウンに変わった。


 「すごい魔道具ですね」

 素直に感服した。前世はカラー剤やカラーコンタクトなどを使わないとできない変装を、何一つ体に負担をかけない形で、しかも指輪の着脱ですぐ元に戻れる魔道具、便利だけでなく、その原理にまで興味を持ってしまった。

 いつかは魔法の研究も真剣にしてみたいものだ。


 「エルフ島についたら、この大人数で移動は目立つから、島には二人だけで行こう」

 確かに、この人数で行動したら、いくら髪色や瞳の色を変えても目立ちすぎる。


 「ええ、婚約者同士の旅行ですから、その方がいいですね」


 「パキッ」

久々に見たルイ殿下の魔力漏れ。体が成長されても、魔力のコントロールは以前と苦手のようですね。懐かしくて少しほっこりした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「いっらしゃい!ルカさんとリリーさんだね!」

 エルフ国では苗字の概念がなく、基本的に皆名前で呼び合う。

 こう朗らかに歓迎してくれたのは宿のご主人であるアドルフさん、御歳60くらいの陽気なお爺さんで、外見も書物で読んだエルフそのもの、日に焼けた褐色肌に、特徴的な尖った耳の形、それ以外は案外人間と変わりない。

一般的に人間嫌いであるエルフたちの中に、アドルフさんは珍しく人間の文化に興味があり、人間向けの宿屋を経営している。

 「部屋は一番上の階だから、連れて行ってあげるよ、イヴァンナ、次のゲストのチェックインをお願い」

 アドルフさんはバックルームから休憩中の女性を呼び、カウンターを任せた。


 「ええ、わかりましたわパパ」

 呼ばれた女性はアドルフさんの娘で、名はイヴァンナ、お腹の具合を見るに、妊娠中期くらいだろう。微笑んでいるが、なんとなく体調悪そうに見える。妊娠中でも家業を手伝わないといけないのは大変ね。


 アドルフさんに連れられて、ルイ殿下と私は一番上の階に向かった。


 「うちは人間さん好きでね、人間の利用者がほとんどだけど、ここはエルフ島だから、最低限エルフのルールは守ってほしい」

 「エルフ島で殺生は禁忌だから、食事に動物の肉や魚は出ないし、持ち込みもやめてくださいね」

 いくら人間の文化が好きでも、エルフにとって肉食の文化は許容しがたい。

 他国に来たからにはその文化を守るのはマナーだから、もちろん了承をする。


 「ちなみにこの宿はわしと娘の二人でやってるけど、娘は身籠ってからあまり体調が良くなくてよ、何か泊まってる間に問題があった時、すぐに対応できない可能性もあるが、申し訳ないけど容赦してくれ」

 もちろん、こちらも了承する。


 「ここが二人の部屋だ」

 アドルフさんは部屋を開けて、鍵を渡してくれた。

人間の貴族からしたらかなり質素な部屋だが、清潔で広さもあり、とても過ごしやすそうだ。

ただ一つだけ問題がある……


「二人の部屋って…一つしかないですか???」

「当たり前だろ、二人は結婚する間柄だろ、部屋を分けてどうする」

エルフ島には婚約期間という概念がなく、婚約=結婚と思ってくれているようだ。

どうしよう…殿下と二人きりで同じ部屋で夜を明けるなんて…前世合わせても異性と同じベッドで寝たことないのに…


私が明らかに困っている様子を見て、ルイ殿下はアドルフさんに部屋の追加を交渉した。

「人間は婚約していても、部屋を共にするのは稀だ、すまないが、他に空いている部屋はないか?」

「困ったの…今日は満室で、この近くで他に人間さんを受けてる宿屋もないし…」

確かに人間が泊まっていい宿屋なんてほとんどない、最近遠洋航海事業が成功してから、エルフ島に宿泊する人間は過去よりかなり増えているため、今から部屋を確保するのは不可能だろ…


「じゃそういうことで、わしは夕食の準備をしないといけないから、二人はよろしくやってくれ」

軽い感じであしらわれ、アドルフさんは颯爽にカウンターの戻った。


お、お父様…本当にごめんなさい……

心の中でお父様に深い謝罪をし、私は運命を受け入れた…

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