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41  その時のデュフォール侯爵 2

 「侯爵様、まず、侯爵様はリリアーヌがエルフ島に興味を持った理由をご存知ですか?」

 「それは貴様の言い分になるのか?」

 「ええ、実は私以前からリリアーヌがエルフ島への遠洋航海事業に身を乗り出したには、何か理由があるのではと思っていて、先日二人きりのお茶会にリリアーヌに確認をしたのです」

 「続けろ」

 「リリアーヌは魔力過多症の解決策はエルフ島にあるのではと考えているそうですよ」

 「っ!」

 「そして、その解決策はおそらくエルフ国の中央神殿に何らかの理由で隠されていて、その交渉のために、数年前からデュフォール領で、エルフ用の透明魔鉱石を探していたのはご存知でしょうか?」

 「……透明魔鉱石……リアがピンクローズ商団に探させていたとは聞いたが、本人に聞いても本で読んだから興味を持っただけだと言っていた…」

 「リリアーヌが言うには、デュフォール領には過去に透明魔鉱石を産出したことがあり、もしかしたら鉱山があるかもしれないそうです。ご存知のようにエルフ島には鉱山がほとんどなく、エルフの魔法質に使える魔法石はかなり希少なものです。もしデュフォール領から透明魔鉱石の鉱山が見つかれば、流石に人間嫌いなエルフ国の神殿でも、こちらに協力して国交樹立に至るかもしれません」

 「………………」


 こんな大事な話を、娘本人からではなく、他人から人伝に聞いてしまったと、娘に頼られていないことに、デュフォール侯爵は悲しみを感じた。

同時に、生涯の愛を誓った妻と、その妻の忘れ形見となる最愛の一人娘を苦しめてきた魔力過多症を解決する糸口が自領にあるかもしれないと、恐ろしいほどの希望に不安さえ覚えた。


「つまり、リアが数年探しても、透明魔鉱石は見つからなかったと言うことだな」

「はい…残念ながら…しかし!商団伝ではなく、侯爵様ならもっと効率よく鉱山の探索ができるのではございませんか!」

「もちろんそうだ、どうせ私が暴走して領民を蔑ろにする恐れがあるからとか言って、自力で細々とやっていたんだろ」

 娘の考えていることなんてお見通しとでも言いたげな様子で、デュフォール侯爵は軽くため息を吐いた。聡明で大胆なところもあるけど、要らぬところで他人を気遣いすぎる優しい性格は、リリアーヌもシャルロットもそっくりだ。


 「父上、その透明魔鉱石の鉱山を、僕にも探させてください」

 いつの間にか部屋に入って黙って話を聞いていたアルベールが、珍しくデュフォール侯爵に意見を出した。


 「……お前なんぞ何ができる」

 わがままも大概にしろといった態度で、デュフォール侯爵は冷たい態度でアルベールを突っぱねた。


 「僕は、透明な魔鉱石を見たことがある」


 「!?そんなばかな!!!お前は生まれてこの方領地にすら行ったことないだろ!嘘も大概にしろ!」


 「本当です、郊外の外れにいた頃、時々遊びに来てくれた平民の子供と一緒に、透明な魔鉱石のある洞窟を発見したことがある」


 アルベールが言い終わるや否や、デュフォール侯爵がアルベールの襟元を掴み、そのまま持ち上げた。


 「今貴様が言ったことが何を意味するか、理解しているだろうな」

 「あなたに言われなくても、僕には姉様を失うくらいならこの家もこの国も滅ぼしてもいいと思っている」

 「………………」

 「………………」


 しばらく二人とも無言の状態で睨みつけ合った末、デュフォール侯爵がアルベールの襟元を適当に離し、アルベールはそのまま床に落とされた。


 「……貴様を信用するつもりはないが、勝手に探す分、許可する」

 アルベールの言ったことを盲信はできないが、デュフォール侯爵にとって、藁にも縋りたい気持ちなのは確かだ。


 「父上こそ、こんな僕に先抜かれて吠えてる場合じゃないだろ」


 口だけ一丁前で絶対負けようとしないアルベールをギラリと睨む付け、何でこんなやつなんで作ったんだとデュフォール侯爵なりに後悔した。

 (リアの病気が治ったら、すぐさま侯爵位を譲位して、この生意気を小僧を家から追い出して、おまけにあのしつこい王家の小僧も同時に払い除ける)

 リリアーヌが全治したら、絶対アルベールもルイ王子も同時にリリアーヌの周りから排除することを心に決めたデュフォール侯爵。


 「それで、ワーズ家の小娘、お前はまだ私の質問に答えていない」

 「リリアーヌはどこにいる、そしてあの王家のクソ小僧は何をしている」


 ついに来たか…と固唾を飲み込んだマリエッテ、意を決して、最大の爆弾を落とした。

 「リリアーヌとルイ殿下は…エルフ島に向かう遊船に乗っております…」


 「……………………」

 つまり、我が愛する娘のリリアーヌは、今単身でクソ小僧に誘拐されて、二人きりで一ヶ月以上かかるエルフ島への長期船便に乗っていると…

 怒りを通り越してもはや言葉を無くしたデュフォール侯爵。


 「あ、あの、リリアーヌの体調の心配もあるし、女性治療師と侍女もちゃんとつけておりますので…」

 無言のデュフォール侯爵に何か恐ろしいものを感じ、恐る恐る追加するマリエッテ。


「…………戦争だ…もう王室もエルフ国も全部ぶっ潰す!!!!!!」


 「ああ侯爵様落ち着いてください!!!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 後に、本当に単身でレオノール女王に殴りかかったデュフォール侯爵は、危うく国家反逆罪で投獄されそうだった。

しかし、バカ息子のルイ王子が侯爵の大事に大事に匿ってきたお嬢さんを攫ったという引け目を感じたレオノール女王によって、侯爵の問題行動は一応揉み消され、ルイ王子の無断長期外出も、なんちゃって海外留学という形で大事にされなかった。

怒り心頭だったデュフォール侯爵だが、息子のアルベールに投げかけられた「そんな暇あったら鉱山でも探せ、復讐はその後でいくらでも派手にやれるだろ」の一言で、一旦冷静に戻り、今は透明魔鉱石の鉱山探しと王家/ワーズ家への復讐計画の作成に明け暮れている。

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