39 計画通り
「殿下はどうして私をエルフ島にお連れしようとお思いですか?」
誘拐された事実をとりあえず置いとて、殿下に今後の予定と行動の目的を聞くことにした。
「ああ、それはね、リリアーヌが言っていたんでしょ、魔力過多症の解決の糸口はエルフ国にあるかもしれないって」
「?私はいつ殿下にそのお話をしましたか?」
「この間、リリアーヌに冷たくされて、僕しばらく立ち直れなかったから、ドア前で侍女との会話を聞いてしまったよ」
「あ、あ…その節は大変申し訳ありませんでした…」
「確かに久々に会った友人に冷たくされたから、かなり傷付いたけど、気にしなくていいよ」
余計気にするじゃないですか…
「でもおかげでリリアーヌから有用な情報を聞けたから、よかったよ」
「有用な情報というのは、エルフ島と魔力過多症の話ですか?」
「ええ、リリアーヌ、僕はね、何がなんても君の病気を治したいんだ」
先程飄々とした優しい笑顔と打って変わって、ルイ殿下は真剣な面持ちで話した。
「気付いただろうけど、今回のことはワーズ嬢にも協力してもらっている」
でしょうね…
私付きの侍女を眠り薬で眠らせても、ワーズ邸から港の船内の部屋まで、眠っている私を起こさないようとなればさらに慎重で時間のかかる移動となる。ワーズ家の協力なしには絶対に成し得ない今回の「誘拐事件」。
しかもこんな高度な風魔法を使いこなせる魔法師は恐らく宮廷でも一番を競うような上級風魔法師、わざわざワーズ領の視察という危険性の低い外出に連れてくることはなかったはず。つまり、そもそもルイ殿下のワーズ領視察は、すでにマリエッテと計画の上だった。
「私をワーズ領に呼び寄せるのも、殿下の計画でしたか?」
友人からのお家に遊びにきて、のお誘いと思っていたのに、少し寂しい気分だ。
「いや、それはワーズ嬢があなたを自宅に招待したいからだ、そもそもデュフォール侯が許可すると思ってなくてね」
「今回のことは、そうだな、僕が君の外出を聞きつけて、無理やりワーズ嬢を巻き込んだとこかな」
私への招待の手紙はマリエッテの意思だったと知り、少し嬉しくなった。
それでも、やはりこの一連の行動は計画し尽くされていて、殿下の為政者としての抜かりなさに感服してしまうところだった。
「でしたら、私が先日マリエッテに伝えた話も、殿下には筒抜けでしたか?」
「重要な話だからね、僕が強要したわけではなく、ワーズ嬢が自らお願いしてきたのだ」
「リリアーヌをエルフ国の中央神殿に連れて、魔力過多症の解決法を教えてもらうように交渉してきてってね」
「そうでしたか…」
今世は門外不出の引きこもり生活で、友人らしき友人はほぼ居なかったが、マリエッテに心配されたのは、なんだか嬉しく思える。
「しかし殿下、殿下は我が国の第一王子、このように前触れもなくエルフ国に入国しては、あえてエルフ国の顰蹙を買うのではございませんか?それに、エルフ国は利益衝突のない国とはいえ、殿下のようなお方が他国でぶらぶらされては危ないように思います」
誘拐された状況を飲み込み、とりあえず今後のことを考えるようにした。
「あ、それはそうね、だから今回はセレスタンの第一王子としてではなく、田舎子爵の令息ルカと、その婚約者のリリーの海外遊学としてエルフ島に行くよ」
「婚約者同士で海外遊学ですか?婚姻を結んでいない男女同士の海外旅行は疑われませんか…?」
「なら新婚旅行という体にしましょうか?」
なぜか一層笑を明るくしたルイ殿下。
「いえ…あの…兄妹の方が疑われにくいのではありませんか?」
ドーンと暗くなってしまったルイ殿下。
「いや…ほら、僕とリリアーヌは全然容姿が似ていないから、兄妹は無理があるかな…」
それもそうか。納得した私は殿下の婚約者偽装の案を受け入れ、ついでに殿下が事前に準備した髪色を変えるイヤリング型の魔道具身につけ、殿下は暗めの茶髪、私は金色の髪に変装した。
なるほど、髪色を変えるにしても元の髪色はある程度反映されるのね。
ということで、いざ、エルフ島に出発だ!




