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3 ピンクローズのブッシュ

春爛漫の午後、我がデュフォールの裏庭は暖かな日差しと咲きこぼれるピンクローズに囲まれ、まるで前世美術館で見たルノワールの油絵のように幻想的で美しかった。

中でも一際輝きを纏っているのは私の目の前に座るお父様--キラキラとしたシルバーホワイトの長髪は緩くサイドに纏められ、ホライズンブルーの瞳はその色の名の通り、まるで海に接する空のように美しい。

「今日体調はいいのか?」

「ええ、天気がよろしいと体調も良くなりますわお父様」

「そか」

お父様はゆっくりとお茶を口に運び、物憂げな表情でピンクローズの茂みを眺める。

「…ここは君の母が大事にしていたローズブッシュだ」

私の母で、シャルロット・デュフォール故侯爵夫人…記憶にはないが、姿絵で見た母は、柔らかなウェーブを帯びる長髪を靡かせ、その美しい長髪はここに咲くピンクローズと同じ色をしていた。


「リアはロティと本当に似ておる」

「リアを見てると、昔のロティがそのまま私の前に座っているようだ」

父の言う通り、私と母は実に瓜二つの容姿をしている。

ウェーブのかかったローズピンクの髪も、ライムグリーンの瞳も、血色に乏しいミルクホワイトの肌も、姿絵の中の母とそっくりだ。


「お父様はお母様のことを、本当に愛していらっしゃいますね」

「あ、もちろんだ。」

「でもリア、私はリアのこともこの世で一番愛おしいと思ってる。ロティに似ているからではなく、リアはリアだから愛しているのだ」

私が不快に思うのを恐れて、お父様は慌ててそう付け加えた。


「旦那様、お休みの所誠に申し訳ありません。王宮より火急の用がございまして…」

父の副官が申し訳なさそうに報告すると、父は一瞬にしてドス黒い表情に変わった。

普段リリアーヌには優しい顔しか見せないお父様だが、基本的に他人には全く興味がない。例え王宮からの呼び出しであっても、リリアーヌがお願いすれば、突っぱねて行かないかもしれない。

だから副官も実に恐縮し切った様子で、多分普段からお父様と王宮との間で板挟みになっているだろう。可哀想に。


「お父様、私少々疲れてしまったので、そろそろお開きに致しましょうか」

そう微笑みながらお父様に話すと、お父様はようやく諦めたように溜息をつき、名残惜しそうに副官について行った。

去り際に、副官から崇拝の眼差しで感謝され、思わず笑ってしまった。


お父様が仕事に向かわれて、私は手持ち無沙汰になってしまった。

せっかくいい天気だし、もう少し裏庭で薔薇鑑賞していようと思ったところ、ローズブッシュの後ろに、何か小さな動物の気配がした。


「おーい、出ておいで」

そう声をかけながらローズブッシュを掻き分けると、ブッシュに隠れているのは小動物などではなかった。

シルバーホワイトの銀髪にホライズンブルーの瞳、まるでお父様を小さくしたバージョンの幼児が怯えるように震えながらしゃがんでいた。


あ、思い出した…

私が発作を起こしてしまうほどにショックだった日のことを…

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