22 パートナー
アンナを商団秘書に雇い、仕事は順調に運んだ。
せっかくだからと、デイビットに2週間の長期休暇を与え、準男爵を位を授けてから、初めての凱旋帰省をさせた。
これもアンナという有能な秘書を雇ったからこそできることで、アンナが来るまで、デイビットを休暇に行かせたくてもできなかった。
盗難転じて有能秘書となす、まさにこういうことだね!
そうこうしているうちに、また半年が過ぎ、私は12歳の誕生日を迎えた。
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「誕生日おめでとう、リリアーヌ」
「ありがとうございます」
12歳の誕生日はいつも通り屋敷で過ごしていたが、ルイ王子から直々にお祝いしたいとお誘い頂いたため、私は今登城している。
もちろん、いつもの事ながら、登城することに父様が大反対していた。
一体何がそんなに父様にルイ王子を毛嫌いさせていただろう…
「これは…ネックレスですか?」
「ただのネックレスじゃないよ、これは北の隣国ヴァルザシスに伝わる魔道具の1つで、付けている人間の魔力を吸い込み、体周囲の温度を一定に保つ効果があるんだ」
確かに北のヴァルザシスはセレスタンに負けまいほど広い国土を持ちながら、年の半分は冬のため、人口はおおよそセインルギ王国の10分の1程度と聞く。
このような温度調節ができる魔道具は貴重でしょう。
「聞く話によると、この魔道具は便利だが、ものすごい量の魔力を常に吸い続けるから、王室メンバー達も、どうしても必要な場合しかつけないらしい」
「その話を聞いた時、もしかしたらリリアーヌにぴったりじゃないかと思って、色々手を回して譲ってもらったんだ」
これは非常にありがたい。
成長につれて、私の魔力も徐々に増えている気がして、以前は月一ほどの発作だったが、最近はより頻繁になった。
このままだと透明魔鉱石の発見を待たず、病床に伏せるんじゃないかと心配していた。
「こんな貴重なもの…ありがとうございます、なんて御礼をすれば」
私はルイ王子に深々とお礼をした。
「いえいえ、元を言えばリリアーヌのおかげだよ」
「実はヴァルザシスから抗生物質の研究を自国でも進めたいと言われ、カレッジにかの研究者たちを受け入れたんだ」
「その見返りとして、リリアーヌの病気に効きそうなこの魔道具を譲ってもらっただけよ」
当時の私は知らなかったが、ヴァルザシスの魔道具は元はもっと簡素な形だった。
ルイ王子たっての希望で、魔道具の機能に影響しない藤色の宝石がこれでもかと言うくらいに留められていた。
「より多くの人に抗生物質の研究に参入して貰えるのは、私にとっても嬉しいことです」
「私は抗生物質を発見した時から、いずれその効力を潜り抜ける、耐性を持った微生物が増えるのでは無いかと危惧しておりました」
「種類を増やし、適切な使用を徹底すれば、抗生物質をより長く使えると存じます」
「リリアーヌはすごいよ、もうそこまで考えていたなんて、僕は君が産まれてきてくれて本当に嬉しい」
リリアーヌの言葉は本心であると、ルイ王子の目に映った。
金を増やしたいなら、抗生物質の研究内容を伏せて、商団お抱えの独占商品にすれば、この国も隣国も、ありったけの金をピンクローズ商団に支払うしかない。
それこそ褒賞で渡した50万金なんかより10倍も20倍もの金を、毎年支払うしかなかった。
でもリリアーヌは抗生物質の効果が認められると、すぐにその研究内容を発表し、ついでに抗生物質の適切な使用と新しい別の抗生物質の研究の重要性を繰り返し訴えてきた。
ルイが恋に落ちた日から何も変わらず、リリアーヌは信じられないほどに正直な人だった。
「それと別件なんだけど、実は僕の誕生パーティーに、ヴァルザシスから王妃と第一王子が我が国を訪問することになった」
ヴァルザシスの王妃ディアーヌ様は、実は我が国の元第二王女、つまりレオノール女王の妹君にあたる。
そのお子様となる第一王子フランツ様も、ルイ王子と従兄弟同士となる。
「その夜会に、僕のパートナーとして参加してもらえないかな」
今年14歳になるルイ王子は貴族会から正式な立太子の承認を得て、誕生日と同時に立太子も発表される予定と聞く。
そんな大事な会に私をパートナーとして招待したいということですか…
「あの…嬉しいお誘いですが、私は体力的にダンスもできませんし、そんな貴重な会に、私なんかがパートナーに務まるでしょうか…」
リリアーヌは父様から超がつくほどの純粋培養を得て、色恋に疎い。
現にこの国の恋愛の常識として、相手の瞳の色の服飾を身につけるのは婚約話が成立もしくは成立間近とか、年頃の男女が単独で面会を重ねるのはお付き合いしているとか、そう言った常識が欠如している。
前世のリリアーヌも研究一筋だったから、26年間恋人を作ったことがなく、お付き合いとは告白を経て初めて始まるとばかりに思っている。
その上、服飾や花を使って周囲にマウンティングを取るなど回りくどい常識があるとは微塵も考えていなかった。
その常識のなさを逆手にとって、ルイ王子に嘘の伝説を吹き込まれ、藤色を好んで毎日身につけていたのは、父様にとって一生の不覚なのは、また余談である。
「ええ、今回お二方が訪問にいらしたのは、僕の誕生日だけでなく、ヴァルザシスでも抗生物質の研究が始められたことを記念にしてのことだから、その発見者である君に僕のパートナーを頼むのは、一番いいと考えたよ」
「ダンスも、叔母様とファーストダンスを踊れば何も問題ないし、君は無理しなくていいよ」
嘘ではないが、完全に真実でもない。
確かに抗生物質の発見者であるリリアーヌに出席してもらう必要はあるが、別に王子のパートナーとして出席する必要はない。
「そういうことでしたなら、謹んでそのお役目をお受け致します」
ルイ王子は心の中でガッツポーズを作り、リリアーヌにさらなる罠をかけた。
「ありがとう、そしたらパートナーとして、ドレスを贈らせてよ、君の一番好きな藤色のドレスでいいよね?」
「はい、お心遣いありがとうございます」
そして後日、届いたドレスを見て、父様が再び灰となったのは言うまでもない話であった。




