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21 商団秘書

「…しくっ…お姉さん…本当に肌がキレイになった…しくっ…」


グリテール入りワセリンをアンナに使わせてからまだ2週間しか経っていないが、生活環境の向上も相まって、アンナの皮膚炎は見る見る内に改善した。

最初は包帯を全身に巻きつけ、顔にすらボロボロと紅斑とびらんでいっぱいだったのに、今は炎症が落ち着き、前まで血が滲んでいたところもかさぶたが取れ、近づいて見なければ気にならない程度にまで回復した。


「お嬢様、本当にありがとうございます!罪を犯した私のために、姉の治療まで施してくださって…本当に感謝してもしきれません」

「このサラ、一生お嬢様のしもべとなり、ご恩に報います!」


サラは床に頭をつけ、ひたすら私に感謝を述べ続けた。

アンナも妹同様、床に跪き、懇々と私に御礼を伝えた。


「愚妹が大罪を犯したにも関わらず、我々姉妹に寛大な施しをくださり、感謝の申し上げようもございません」

「できることなら、身を粉にしてリリアーヌ様に恩返しをしたい所存です」


ここまで感謝されると、なんだか少し照れくさい。


「二人とも立ち上がってちょうだい、これは二人だけのためではないわ、この国は治癒魔法に頼りすぎて、民にとって治療手段が少なすぎることを、私も常々危惧していた」

「皮膚病に効く薬ができたことで、アンナのように病に苦しむ人が減るならば、それは本来貴族である私の勤めだわ」


そう話すと、二人は涙ぐみ、私の言葉を飲み込んだ。


「それに、私が指示したのは薬の開発だけではないわ」

私は二人に微笑みかけ、デイビットに報告書を読み上げるように促した。


「二人の父が経営していた商団は、叔父3人によって占領されたが、調査により、それは紛れもなく窃盗罪でした」

「すでに地方警備隊に窃盗罪の証拠を提出し、叔父3人は逮捕されました」

「しかし残念ながら、あなた方の叔父たちに商才はなかったようで、商団自体はすでに破産も同然の模様です」

「一応叔父たちの私財を全て売り払って、二人に賠償金が支払われる予定で、審判の結果次第、その金額が知らされるでしょう」


叔父たちの罪が顕になったと聞き、サラは一層涙を流し、言葉すらままならなかった。

代わりにアンナは涙を浮かびながらも、冷静に私に感謝の言葉を返した。


「…っ…ご恩に預かって、もう感謝の言葉も見つかりません」

「叔父たちがしていたことは罪と存じながらも、私たち姉妹にはその罪を告発する術もありませんでした…」

「父が大事にしていた商団が残念な結果になったのは、後継者に指定された私の不甲斐なさによるもので、誰かを恨むことはございません」


長年耐えがたい苦労を強いられてきたというのに、アンナの気性は気高いままだ。

それはきっと、ご両親が施してきた教育の賜物でしょう。

幼い妹を孤児院に預けば、すでに高い教養レベルを持ち合わせていた当時14歳のアンナには、いくらでも活路はあった。

しかし責任感の強いアンナは、自分が楽するより、妹をどうにかしても立派に育てる方を選んだ。

父の商団が叔父たちに食い潰されたと聞いても、怒りではなく、己の不足を省みるその姿勢は、誠に誰にでもできる芸当ではない。


「お父上の商団は残念だが、アンナ、私はあなたをピンクローズ商団で雇いたいわ」


アンナを別館に住まわせたこの3週間、私はアンナに様々なタスクを課してみた。

というのも、サラからアンナの話を聞いた時から、私はアンナの能力が気になった。

今私の副官はデイビット一人、その仕事範囲は研究から商団までカバーし、さらに最近はアトラント湖地区という領地まで授けたから、流石のデイビットも、言葉通り寝る間もなく働かざるを得なくなった。

デイビット本人は持ち前のワーカーホリックさを発揮し、生き生きとして業務をこなしているが、長い目で見ると、やはりもう一人商団の業務を手伝える人材が欲しいと考えていた。


そこで、アンナの話を聞き、幼少期から商団主になるため幅広い教育を受けてきた後継者、しかも調べたら二人の父の商団は平民が経営する商団の中ではかなり規模の大きい方で、それを取りまとめるためにアンナが受けてきた教育は相当のもののはず。

その狙いは当たり、アンナは実に優秀だった。

与えた商団の業務を全て卒なくこなし、税金や会計のシステムもよく理解していた、今すぐ商団秘書に雇っても問題ないほどだ。


「私はこの3週間、アンナの実力を試していたわ、その結果、やはりあなたは我が商団の秘書に打って付けの人材だと確信した」

「お父上の商団を建て直したい気持ちもあるとは思うが、ここはひとつ、私の秘書としてしばらく経験を積むのはどうかしら」


「過ぎた言葉に痛み入ります、リリアーヌ様のお役に立てるなら、どんな仕事でもさせてください!一生ご恩に報います!」

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