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19 盗難

「リア、ルイ殿下と何を話した!?」

馬車に乗るや否や、父様は焦ったように私を問いただした。


「お父様、私を問いただす前に話すことはあるのではありませんか?あの藤の花のブーケ、どうやらルイ殿下が毎月送ってくださっているものではないですか」

「っく…それは…本当はすぐにでも処分したかったが、君が藤の花を見ると喜ぶから…仕方なく受け取っただけだ…」

まさか本当に捨てるつもりだったなんて!


「お父様、王子からの贈り物を捨ててはなりません!不敬罪です」

「ふん!そんな身の程知らずの小僧なんぞ、不敬も何もない!」

なぜ父様はこうもルイ王子を毛嫌いするのか…全く見当もつかない…


「とにかく、帰ったら改めてルイ殿下に感謝の手紙をしたためるから!もうお父様ったら、ルイ殿下は私のことを思って花を送ってくださっているのに、そんな態度取らないでください」

「おっ、思ってって…君はルイ殿下の気持ちを受け取るつもりなのか!?」


この時の私は知る由もなかった。

私が思っていたのは「病気快癒」の気持ちだが、父様には別の気持ちだと理解していた。


「?もちろんですわ、受け取らない理由なんてないじゃないですか」


私の言い分を受け、父は言葉通り、雷に打たれたような顔をして、すぐに元気を無くした。

灰となりつつある父様を見て、私は首を傾げた。

何がこんなに父様をルイ王子を嫌いにさせただろう…


ーーーーーーーー


登城した日から数ヶ月が経ち、アルベールが7歳の誕生を迎え、デュフォール家にはすっかり日常が戻ってきた。


ルイ王子へ感謝の手紙を贈ったことがきっかけとなり、私はルイ王子と時々文通をするようになった。


そんな平和が続いたある日、屋敷に事件が起きた。



「この泥棒目!姉様の宝石を盗むなんて!恩知らずにも程がある!」

アルベールは激怒した、私の専属侍女であるサラを罵った。


その事件というのは、サラが私のあまり使っていない宝石を盗んでいたところを、アルベールに発見されたから。


「しくっ…申し訳ございません…しくっ…お坊ちゃま、お嬢様…しくっ…なんとお詫びすれば…しくっ…」


以前は父様の緘口令があり、屋敷の使用人はアルベールのことを、「あの者」としか呼ばなかったが、今はすっかりデュフォール家の長男として敬われるようになった。


「侘びて済むものか!」

アルベールの怒りはちっとも減りそうにないから、とりあえず窘めた。


「アルベール、そう怒らないで、まだサラの言い分を聞いてないではないか」

「っ!しかし姉様!この者は姉様に専属侍女として信用してもらったにもかかわらず、姉様のものに手を出したぞ!許されることじゃない!」

「とにかく落ち着いて、確かに私のものを盗んだのは許されることではないが、アルベール、あなたは我がデュフォール家の次期当主として、いついかなる時も冷静で公正な判断をしなければならないわ」

「っ…」

私にそう言われると、アルベールは不満そうな顔をしながらも、ぐっと唇を結んだ。

えらいえらい、まだ7歳なのに聞き分けのいい子に育って姉様嬉しいわ。


「それで、サラ、どうして私の宝石を盗んだか、理由を話してくれる?」

「しくっ…お嬢様…本当に申し訳ございません…しくっ…その…姉のために治療師を呼びたくて、どうしてもお金が足りなかったです…しくっ…」


詳しく話を聞けば、サラには姉が一人居た。

二人は商家の娘に生まれ、平民にしてはかなり裕福な環境で育った。

その姉は家業の後継者として、親からたくさんの教育を施され、同時に皮膚病の持病があった。

以前はそれほど酷い持病ではなかったのに、両親が事故で急逝して以来、持病が悪化した。

しまいには、叔父たちに家業を奪われ、二人はほぼ無一文に追い出された。

サラの姉は、妹に苦労をかけまいと、仕事をいくつも掛け持ち、皮膚病のため人前に出る仕事が難しくても、男に混じって、日雇いの工事現場の仕事や、ゴミ処理の汚い仕事までこなしていた。

苦しい中でも、妹を行儀見習いとして貴族の屋敷に行かせ、その結果、仕事っぷりが評価されたサラは、我がデュフォール家に推薦されたのだ。


「…しくっ…姉は本当に病に苦しめられて、最近は皮膚に包帯を巻いても、肌から血が滲むような惨状です…」

「デュフォール家からいただいたお給金はとても手厚いですが、どうしても私の収入だけで治療師をお呼びするのが難しくて…しくっ…」


なるほど、本当に追い詰められた事情があったのね。

サラは私が幼少期の時から屋敷で働いていた古株で、今まで一度も問題を起こしたことがなく、むしろ本当によく働いてくれていた。

長年仕事をしていたといっても、サラもまだ18歳の少女、今まで身を削っていても自分を育ててくれた姉が、肌から血が滲むよう病状なら、どうにかして治療師を呼んであげたいのも当然だろう。

何より、この国は治癒魔法に頼り、医療を発展させてこなかったから、サラのような平民たちに苦しい状況を強いていること自体が間違いだ。


その叔父たちも、孤児となった姪たちを助けるところか、その財産に目が眩み、良くも外道なことをしたものだ。

そもそもこの国は、指定がない場合のみ男児優先の相続法を取っており、娘しかいない場合や、親から指定がある場合は、その嘱託に則って相続されるのが正しい。

さらに、例え後継者が一人に決まっても、残りの子供たちには法律上決められた取り分が受け取れるはずだ。

サラの家の場合、娘が二人もいて、さらに姉の方には後継者教育まで施されていたら、明らかに主な相続者は姉になるはずだ。

後継者ではないサラにも、受け取れる遺産があるはずなのに、無一文に追い出されたのは、どう考えても、その叔父たちが不当に法律違反したとしか考えられない。


「事情はわかったわ、そんなに苦しい状況だったなんて、一言相談してくれれば、盗みなんてする必要なかったのに」

「…しくっ…お嬢様…身に余るお言葉です…本当になんとお詫びすれば…」


「とはいえ、この屋敷で盗みを働いたのは事実だから、サラには3ヶ月の減給処分を下すわ」


減給と聞き、サラは身を震わせ、深々と頭を床につけた。

「はい、このようなことをして、本当は推薦書なしに追い出されるべきなのに、お嬢様の温情に感謝申し上げます」


「しかし、その事情を知ってからには、私も見過ごすことはできないわ、明日、姉をこの屋敷に連れてちょうだい」

「……しくっ…承知致しました」

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