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18 再会(ルイ視点)

その後のことは、どれも僕の想い通りにいかなった。

母上にリリアーヌと婚約したいと申し入れても、難しいと言われた。


「なぜだ!デュフォール家は家格を見ても申し分なく、しかも婚外子とは言え、リリアーヌの外に第二子もいるのではないか!」

「家の問題ではないわ、リリアーヌ嬢はその…魔力過多症を患っている」

「病気?病気なら王宮治療師を全員派遣すれば、どんな病気だって治るだろ」

「ルイ、この世の中には治癒魔法を施しても治らない病気があるの」


初めて知った。

リリアーヌがかかっている病気は、この国の歴史を見ても20人ほどしかいない極めて稀な魔力過多症、治癒魔法で一時的に体の回復を促しても、大元の原因は治せないから、言わば不治の病だ。


皮肉にも、僕はこの時初めて、リリアーヌが話していたことが真理だと気づいた。

自分が病気になればまだ諦めがつく。

大切な人が病気なのに、何もしてあげられないことの方が、よほど恐ろしくて苦しかった。


しかしそれでも僕はリリアーヌへの思いを断ち切ることはできず、本来8歳に決まるはずだった婚約を、延々と引き伸ばした。

母上もそんな僕の我儘を受け入れ、最大限に僕の恋のサポートをしてくれた。

王宮の温室を半分以上藤の花の栽培に使い、毎月デュフォール家に贈った。

加えて、リリアーヌ宛に、王宮での個人的な茶会の誘いも頻繁に贈っていたが、どれもデュフォール侯から「娘は体調が優れない」と断られた。

体調が悪いなら見舞いにでも行きたいが、それもデュフォール侯から断固拒絶され、この頭の硬い過保護男には、本当に苦しめられたものだ。


いつしか時が過ぎ、もうリリアーヌは僕のことなんて忘れているのではないかと考えていた頃、彼女はとんでもない功績を残した。


最初は、デュフォール侯が娘の名義を使って、ピンクローズ商団の事業を進めていると思っていた。

しかし、次々とピンクローズ商団から斬新な発明が世に出され、それが全てリリアーヌによるものだったと知り、僕を含め、王宮に務める人間全員驚いたものだ。


それだけに止まらず、リリアーヌはカレッジから研究者を引き抜き、自分の副官にさせ、今までにない新しい薬や、高額ゆえ平民に渡れなかった石鹸の大量生産にも成功し、なんと毎年多くの死者を出す流行り病を、ほぼ己一人の力で食い止めた。


その功績に対し、国王として褒賞を与えることが決まった。

さすがのデュフォール侯も、この登城に異を唱えることができず、僕は5年ぶりにリリアーヌに会えた。


11歳になったリリアーヌは聡明な少女へと成長し、眩しいほどに優雅で美しかった。

あわよくば僕の印である藤色の礼服で登城してくれないかと期待していたが、さすがにそこまで都合良くならなかった。


5年ぶりに話すリリアーヌは相変わらず、嘘ひとつ付かないまっすぐな人だった。

状況から察して王室に近い立場の僕に、知っているふりをせず、素直に誰と聞いてきたところ、その正直さに感動を覚えながらも、やはり認識されていないと悲しくもなった。


「藤の花は私の一番好きな花です」

そう語るリリアーヌを前に、僕は思わず小躍りしたい気持ちをグッと抑えた。

恐らく、僕がその場凌ぎで作った伝説を律儀に信じていただろう。

嘘をつかないリリアーヌだから、僕がそんなくだらない下心で嘘の伝説をでっち上げたなんて夢にも思わなかったはずだ。


このまま外堀から埋めていけば、いつかそのデュフォール侯も諦めて、リリアーヌと僕の婚約を認めざるを得ないだろう。

残りは、リリアーヌの魔力過多症を治す手掛かりだけだ。


ふと、僕の計画に必要不可欠なあの婚外子を思い出し、さりげなくリリアーヌに聞いてみた。

僕にとっては、その婚外子なる弟がいてこそ、リリアーヌを女侯爵にさせなくて済むが、リリアーヌから見れば、父が自分を差し置いて婚外子を作ったものだから、嫌がっても仕方ないだろう。


しかし、帰ってきたのがまたもや意外な返答だった。

どうやらリリアーヌはその弟を大層気に入っているようで、その可愛がり方はもはや僕にとって嫉妬に値するほどだった。


「うちのアルベールは本当に可愛いんです、勉強嫌いなのに、私が教えてあげれば素直に聞いてくれますし、ピーマンと人参が嫌いで食べれないけど、私が手作りで間食作ってあげれば、涙浮かべながら意地で完食してくれるんです、ふふ、本当に可愛らしいです」

「……………………そう………君は弟君を大層気にかけているようだね」

嬉々として弟とのエピソードを話すリリアーヌに、僕は妬かずにはいられなかった。

この5年間、僕は一途に君に恋しているのに、妨害のため認識すらしてもらえなかった。

なのに、その弟とやらは、君に手取り足取りに勉強を教えてもらえて、さらに手作りの間食まで享受していると?

なんて贅沢なやつだ!


「ええ、気にかけるも何も、世界でたった一人の、最愛な弟ですから」

頬を赤らめるリリアーヌの言葉に、僕の脳内の何かがポツンと切れた気がして、無意識に魔法を展開した。

その結果、目の前の皿を割ってしまった。

先に弁明しておくが、僕は何をやらせてもうまくいくとの定評があり、魔力制御も本当は年齢以上に上手のはずだ。

こればかりは感情が爆発しそうだから、コントロールなんてできるはずなかった。


しかし、そんな僕の努力をよそに、リリアーヌはさらに追い打ちをかけてきた。

「お気になさらず、弟もたまに魔法を失敗させて、泣きながら私に抱きつくんですから」

抱きつく??!なんだあの顔も知らないクソガキ、魔法に失敗したくらいで姉に抱きつくか!!?

許せん!!!!


僕はまたもや皿を割ってしまった。

粘着気質で有能なルイ殿下なんですが、実はリリアーヌに関してはかなりの苦労人です笑

書きながら心の中でルイ殿下ファイトと応援をしています笑

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