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13 王宮からの呼び出し

夏が訪れ、例年ながら豪雨の季節が始まった。

デイビッドの努力も相まって、デュフォール領の平民を中心に石鹸が低価格で入手できるようになった。

今まで貴族にしか使えなかった石鹸が手に入ったことにより、平民たちの間で手洗いブームが流行した。

また石鹸の包装紙に「1ヶ月以内に石鹸を使い切れば、次は半額で購入できるクーポン」を印刷したことで、平民たちは購入した石鹸を放置することなく積極的に手洗い励行したこともブームの一因となった。

さらに、デュフォール領を中心に優秀な薬師の募集も順調に進み、今は30人程度の一期生と専属契約を結んだ上、領地屋敷の別棟に集め、抗生物質の使用と注意事項を教えている。


豪雨が長引く中、やはり例年のように、王国内のあちこちから水難や流行り病の報告が上がってきた。

王宮から治療師を無償に派遣したり、各領地の領主も積極的に水難の対策を講じているが、どこの領地も小さくない被害を受けていた。

その中、圧倒的に被害の少ない領地が一つだけあり、それがまさに手洗い励行と抗生物質の使用が進められたデュフォール領だった。

もちろん、石鹸や抗生物質を独占するつもりはなく、むしろ全国的な被害を予測した上に、私は石鹸と抗生物質のストックを十分に用意しておいたため、その効果が国王や他の領主に認知されてすぐ、低価格の援助提供を申し出た。


その甲斐があって、豪雨期の後半にはほとんど全国的に石鹸の使用と手洗い励行が一般的となった。

またデュフォール領で抗生物質使用の訓練を受けた薬師を全国各地に派遣し、適切な使用のもと、なんと今年の流行り病による死者を0人に食い止めることができた。


ーーーーーーーー


「お父様、お呼びでしょうか」

父様は珍しく私を執務室に呼びつけた。


「ああ、掛けてくれ」

眉を顰め、父様は沈痛な表情で私にソファーを勧めた。

何か良かぬことでも起きたでしょうか。

例えば抗生物質による副作用が出現したとか?前世ではペニシリンによるアレルギーが主な副作用だったが、もしかしたらこの世界では魔力を不安定にさせるなどの、前世には存在しなかった副作用が起きたかもしれない。

私は少し不安に思いながら、ソファーに腰を下ろした。


お茶で喉を潤わせ、父様は重い口を開いて話した。

「王宮からの命令だ」

お、王宮…ただならぬことは確かのようだ。


「抗生物質と石鹸製造の功績を讃え、陛下から君とデイビットに褒賞が授与されるから、登城しろと」


……………?


「…?お父様、それっていいことではありませんか?」

なぜ父様はそんな沈痛な面持ちなのだ?


「っ!いいわけないだろ!君をあの王宮に連れていかなければならぬぞ!」

「……王宮って地下ダンジョンか何かですか?」

「地下ダンジョン?」

「あ、いいえ、こちらの話ですので忘れてください」

異世界に転生したからって全てのテンプレに当てはまるわけないじゃない。

この世界に魔法はあるけど、ダンジョンはない……多分。


「それって、登城はいつすればよろしいのです?」

「っ!リアは登城したいのか!?まさかあいつに会いたいと思ってるのか!?」

「あいつとは誰なんです?私王宮に知り合いがいるとは思いませんが?」

リリアーヌは言わば筋金入りの引きこもりなので、王宮どころか、屋敷の外にすら知り合いはいないのだ。


「そもそも正式な手順を踏んだ王命に拒否権などないのではありませんか。それに、私とデイビッドの功績が認められたのですから、嬉しく思いますわ」

本音を言うと、抗生物質の効能をより広く認知して貰えば、さらに多くの人が抗生物質の研究に参入して貰える可能性の方が一番嬉しい。

現にデイビットが発見した抗生物質は一種類だけ、将来的に臨床で広く実用化されれば、瞬く間に耐性菌の問題が出現するだろう。


抗生物質の将来に想いに馳せていたら、なぜか目の前の父様は泣いていた。

「ど、どうしたんですか??お父様」

「しくっ…リアはもう…パパと結婚すしたくないのか…しくっ…デュフォール家から出ていくのか…しくっ…」


どうしたらそうなる?お父様の思考が跳躍しすぎて全くついていけない。


「お父様、私はまだ11歳ですよ、そりゃもうお父様と結婚できないのをわかる年になったのですが、さすがに今すぐデュフォール家から出ていくわけないじゃないですか…」

「しくっ…すまない、娘の成長と功績を喜んであげるべきなのに、王宮に行けばあいつに会ってしまうと思うと…お父さん…うぅぅぅぅ」


だからあいつって誰なんです????


泣いて話にならない父様を慰めつつ、とりあえず登城する日取りを取り決めた。

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