11 抗生物質
初春の季節に、リリアーヌは11歳の誕生日を迎え、それはそれは盛大に祝われた。
お父様からは私専用の別館を屋敷内に建ててもらい、商団関係や副官のデイビットの研究室もこちらに移した。
アルベールは習いたての魔法を私に披露し、弟の健やかな成長に私は思わず目をうるうるとさせてしまった。
「リリアーヌ様!ありました!微生物のみを殺す毒素!!ありました!!!」
私の誕生日から一週間後、デイビットから願ってもないプレゼントが届いた。
「素晴らしいわデイビット!これでようやく流行り病を治す薬が作れる!」
「リリアーヌ様のお誕生日に間に合わせたかったが、1週間過ぎてしまいました…面目ありません」
私の誕生日に間に合わせようとしていたのは初耳だ。
だからあんなに寝る間を惜しんで研究に取り掛かったのか。
てっきり研究の糸口が見えて興奮していたかと思っていた。
「そんなことないわ、最高の誕生日プレゼントよ」
「こんなたった数ヶ月で見つかるとは思わなかったもの、やはりデイビットは私が見込んだ以上の天才だわ」
彼に惜しみない賛辞を送り、褒め称えた。
「い、いいえ、本当の天才はリリアーヌ様です、私はただリリアーヌ様に言われた通りに仕事をしただけです」
顔が赤くなりやすいのはいつもと変わらないようで、デイビットは今も私に褒められるとすぐ顔が真っ赤になってしまう。
「それでは早速この毒素を使って薬を作ってみよう」
「名前はそうね、微生物を殺す薬だから、抗生物質でどうかしら?」
前世ではペニシリン以外にも多くの抗生物質が次々発見され、区別のためにカテゴライズされていたが、この世界では初めて発見された抗生物質だから、用途を広めるためにも、敢えてアバウトな名付けにした。
「かしこまりました!この薬があれば、私の実家のような人たちも、流行り病を恐れずに生活できると思うと…もう涙が止まりません…」
デイビットは何かと涙脆いようで、抗生物質がもたらす医学の進歩に思いを馳せ、涙をこぼした。
「リリアーヌ様は我々平民にとって、まさに祝福の女神です」
「恐縮ながらも平民代表として、私から御礼を申し上げさせてください」
そう話しながら、デイビットは私に深々と頭を下げた。
「これはデイビットがいたこそ得られた成果よ」
「私一人では継続して実験を行うのも困難だから、きっと発見に至らなかったでしょう」
実際私の1日の活動時間は長くて4、5時間、それも立ちっぱなしの重労働ではなく、座って読書やお話をするだけ、とても研究できるほどの体力を持ち合わしていなかった。
「神様は不条理です…リリアーヌ様のようなお方に、なぜこのような病を課せられたのか…」
デイビットは心底悔しそうに話した。
私は何も答えず、ただ苦笑しながら、窓の外を眺めた。
小説の内容を知る私には、魔力過多症の対策を知っている。
しかし、それはあくまで知っているだけで、必ず我が身を救えるとは限らない。
現に探索隊を領地に送ってから9ヶ月経つのに、いまだに透明な魔鉱石に関する情報がなく、難航している最中だ。
寿命の15歳まで、もうあまり時間がない。
魔鉱石を発見してから、さらにエルフの国に掛け合い、聖獣と引き合わせてもらわなければならず、私の寿命はそれまでに間に合うのか…実のところ未知数だらけだ。