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 久美ちゃんと別れてから、学校が終わる時間にはまだ間があったので、ぼくは駅前のゲームセンターやネット喫茶なんかで時間を潰した。どこへ行っても制服姿の高校生がけっこういたので、そこにぼく一人が紛れたところで違和感はなかった。そして、下校する時間帯を見計らって帰宅した。

 自分の部屋に入って、ぼくはすぐにパソコンの電源を立ち上げた。

 失望保険受給者の唯一の義務、SNSに接続するために。

 義務ではあったけれども、ぼくはSNSを覗きたくてうずうずしていた。

 介錯士と失望保険受給者しかアクセスできないということが余計にぼくを急かしたんだと思う。

 『SUICIDE-NETWORKING-SERVICE』と検索をかけると一番上にサイトの入口が出てきた。

 IDとパスワードを打ち込むと、

「鈴木 遼太郎さま SUICIDE-NETWORKING-SERVICEへようこそ!!」

 と表示されて一通りの機能とその使い方を紹介し始めた。

 プロフィール、プロフィール写真、メッセージ、日記、コミュニティ、レビュー、足跡。スゥーフレなど、本来のSNSによく見るサービスばかりだ。

 自分のプロフィールを開いてみると、名前や住所や出身地、趣味、家族構成、学校での成績、自殺未遂した場所、引っ越した年、場所など事細かに記載されていた。個人情報の漏洩も甚だしいが、『※これらの情報は鈴木さまのより良い自死のためであり介錯士、失望保険受給者以外に洩れることはありません。』と注釈がついてるのを見ると、今朝の大久保らいかの言葉を思い出し、承服するしかなかった。

 何からすればいいのか分からなかったが、メッセージタブだけ赤く表示されていたのでとりあえずクリックしてみる。

 『大久保 らいか(介錯士;E)さまよりメッセージが届いています。

  件名;大久保らいかです。

  今朝はご利用くださってありがとうございます♪

  足らない説明でお分かりになりにくいことも多々あったかと思いますが、その際はいつでもメッセージくださいね。

  出来る限りお答えします。

  介錯士として指名していただければ全力で頑張りますのでよろしくお願いします。

  あと、よければスゥーフレになっていただけるとすごく嬉しいです♪』

  とメッセージがあり、一番下には、

 『大久保らいかさんをスゥーフレに承認しますか? 承認 or 拒否』

 とあった。ぼくはつかの間、逡巡したが断る理由もないので『承認』をクリックした。

 すると、スゥーフレの欄に大久保らいかの写真と名前が表示されて、ぼくの名前の脇に(1)と数字が出た。

 どうやらその数字はスゥーフレの人数を表示しているようだ。スゥーフレはおそらくスゥーサイドフレンズの略だろう。

 大久保らいかの写真は今朝、会った本人以上に可愛い。

 写真加工でもしているのだろうか。介錯士を顔で選ぶわけではないだろうに。

 大久保らいかの写真をクリックしてみると、彼女のページに跳ぶ。

 プロフィールを見ると、彼女がこれまで介錯した人数、介錯した受給者の平均受給期間、介錯方法、介錯士ランク、年齢、性別、活動地域、活動期間、平均保険点数などが表示される。

 今年、介錯した人数は6人。方法は全て銃殺。平均受給期間1日未満。ランクE。活動期間は今年の4月からになっている。

 平均受給期間が1日未満ということは多分、大久保らいかに介錯された受給者は、全員”その場で”を選んだのだろう。

 ランクEがどの程度なのかは分からなかったが、介錯人数が6人だから、彼女の言うとおり、まだ駆け出しの介錯士で、今年の4月からだということは彼女は新卒だろうか。

 他にどんな介錯士がいるのか気になって、SNS内の介錯士を検索してみた。

 検索項目は豊富で、年齢、性別から介錯人数、ランクなど、大久保らいかのプロフィールに載っていたようなことは全て検索できるみたいだ。

 絞って検索する前の対象数がおよそ5千人。ということは介錯士は全国に5千人ほどいるらしい。

 試しに介錯士ランクを選んでみる。

 ランクはSS、S、A、B、C、D、E、F、G、Hの十段階に分かれている。

 ということは大久保らいかのランクEは下から数えた方が早い。

 ランクEの介錯士の年間平均介錯人数は15人前後。介錯士としての活動期間は一年半。介錯一件あたりの平均保険点数2万5千点。一番多い介錯方法は服薬、次いで銃殺らしい。

 これがランクSSの介錯士だと、年間平均介錯人数は20人とあまりランクEの介錯士と変わらないが、一件あたりの保険点数が50万点と桁が一つ違う。つまり1点が10円だから、一回の介錯につき500万円(域内通貨で5000元)の収入を得ている。

 そしてランクSSに所属している介錯士の人数はちょうど10人。

 5000人中の10人。まさに選ばれし精鋭。

 たしか大久保らいかは顧客満足度によって報酬が大幅に変わると言っていたから、一件あたりの保険点数がこれだけ高いのはそれだけ満足して死ねるということなのだろう。

 介錯士を指名するならランクが高い介錯士を選ぶべきかな。

 でも、年間30万人自死者がいて、ランクSSが介錯できるのは20×10=200人。狭き門だな。

 まだ、1月あるわけだし、今、慌てて決める必要もない。

 それより、自分のプロフィール欄で空白になっている希望する自死方法を考えなきゃいけない。

 とりあえず、楽に死にたい。

 あと、迷惑は掛けたくない。

 でも、そんなことはどんなレベルの介錯士だって出来そうだ。

 死ぬまでの1月。せっかく1月あるわけだし、1月を思いっきり楽しみたい。

 そう、この十七年間味わったことのないほどの。

 ぼくは自死方法について1時間ほど悩みに悩んで、言葉がふっと沸いてきた。

 そして、ぼくはごく簡単に希望を書いた。


 『生きたい』と。


 死にたい人間が生きていたいなんて明らかな矛盾だけれど、生きることを、生きていたいと、生きる喜びを実感できればいつ死んでもいいと思った。

 そんな気持ちに生まれてから十七年間なったことはなかったし、人間が生まれたら必ず死ぬからには、生きるということが神様が与えた罰ゲームじゃないのなら、生きていてよかったと思う死に方があってもいいんじゃないかと思う。

 『我が人生に一片の悔いなし!』

 と古典マンガの登場人物みたいな死を迎えたい。

 

 『確認』ボタンをクリックすると、プロフィールの希望自死方法に「生きたい」と表示された。

 しばらくすると、メッセージタブが赤く点滅した。

 クリックすると、20件ほどメッセージの表題が表示された。

 とりあえず、一番最初のメッセージをクリックした。

 『吹上 みあ(介錯士;F)さまよりメッセージが届いています。

  件名;はじめまして

  吹上みあと言います。

  急なメッセージですいません。

  遼太郎さんもSNSは今日が初めてですよね?

  わたしも、今年に入ってから介錯士をはじめたばかりなんです。

  まだひとを殺すということに慣れてなくて、いつも介錯したあとは、1週間くらい眠れない日々が続きます。

  周りの介錯士仲間には「半年経つんだから、いい加減慣れないと」言われるんですが、どうやって介錯したら、そのひとにとって1番嬉しい介錯になるんだろうって考えすぎてしまうのかもしれないです。

  でも、それって介錯士にとってとても大事にしなきゃいけないんじゃないかって思うんです。

  だから、もし、遼太郎さんの介錯をさせていただけるなら精一杯、介錯させていただきます。

  遼太郎さんのために、1月間、出来るだけの奉仕させてください。

  わたし、介錯はまだまだ初心者だけどS●Xにはちょっと自信があるんです。

  コスプレプレイとか、緊縛とか、蝋燭プレイ、羞恥プレイとか、逆に女王様プレイも出来るんですよ。SでもMでも、遼太郎さんの1月、「イキたい」という思いを満足させる自信はあります。

  介錯士にわたしを指名してもらえませんか?

  急なことなので、びっくりされてるかもしれないですが、介錯士って早めに決めておくと、気分が楽になるんです。

  それがダメならせめてスゥーフレからはじめませんか?

  お返事お待ちしています。』

 まるで、出会い系の迷惑メールみたいな内容で思わず吹き出した。

 吹上みあは『生きたい』を何か隠語と勘違いしたんだろうか?

 吹上みあのプロフィールを覗いてみると、彼女の言うとおり、活動期間6ヶ月と日は浅い。

 写真の吹上みあは、大きな栗色の瞳を輝かせ微笑んでいる。世の中の男、10人に聞いて8人はかわいいと言うだろう。あとの2人だって言い寄られれば、吹上みあ得意のS●Xだってするかもしれない。 そう考えると、介錯士にとって容姿は重要なのかも。特に彼女みたいなセールスポイントを持っている場合は。

 今年度介錯人数10人。死ぬ前に酒池肉林を楽しみたいという人間は案外多いのかな。

 最多介錯法;服薬。

 平均受給期間3.5週。

 介錯士ランクF。大久保らいかより低い。名前の後に来るアルファベットが介錯士のランクを表していることに気づく。

 平均保険点数1万9千点。これも大久保らいかより低い。

 そして写真の下にはスゥーフレの人数が666人と表示されていた。やけに多い。


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