R12の体育祭
「さあ、始まりましたよ、馬込さん」
「楽しみですね、新館さん」
「R12の体育祭、いよいよ開幕です」
「ところでこれはどういうイベントなんですか?」
「いい質問です。知らないフリをありがとうございます、馬込さん」
「いえいえ。ほんとうに知らないんで」
「12歳未満の人は参加できない体育祭なんですよ。つまりもう保護者同伴でなくてもいいんです」
「でも過激な内容はダメということですね?」
「多少の性描写などはいいようです。たとえばアレをおしべとめしべに例えるなどはむしろ推奨されていますね」
「なるほど性教育なら構わないんですね?」
「おおっと! 生徒たちが入場してきましたよ」
「入場行進ですね」
「膨らみはじめた胸を揺らし、女子中学生たちが列をなして入ってきました」
「なんか嫌らしい言い方やめてください」
「かわいいですね」
「なんか違う意味に聞こえる言い方やめてください」
「男子どもは小生意気だ! まだまだ子供という感じです!」
「この年頃は女子の成長のほうが早いですからね」
「最初の競技が始まりました。『パンズ・ラビリンス鑑賞』です」
「ああ、ナルニア国物語みたいなかわいい映画と思わせて、グロい描写や怖いものをこれでもかと浴びせてくるあの映画ですね? 確かにR12です」
「おおっと! 怖がって泣きはじめる生徒が続出だ!」
「R15でもよかったんじゃないですかね、この映画」
「続けて競技は『告白リレー』に変わります」
「なんのリレーなんですかそれ」
「恋心を告白する前走者からラブレターを受け取り、真っ赤な笑顔を背けて走り出すリレーです」
「次の走者に回されちゃうじゃないですか、ラブレター」
「若い恋心というのはそういうもんですよ」
「出ましたね、わかったようなオッサン発言」
「次の競技は『バトルロワイヤル』ですが、R12ですのでもちろん残酷描写はありません」
「面白いんですか、そんなの?」
「ほのぼのしていますね」
「眠たくなってきました」
「最後の競技が始まりました!『彼氏と初めて行った夏祭りの夜空に花火を見る』です!」
「競技なんてすか、それ?」
「細かいことは抜きにしましょう」
「そうですね」
「きゅんきゅんしませんか?」
「きゅんきゅんしますね」
「いいものですね」
「いいものですねぇ……。心がピュアになります」
「おおっと! 我々はいつの間にかこの純粋さを失っていたあ!」
「うわあああんっ! 汚れちまつた悲しみに!」