表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第九章 年末は家族で
99/123

第98話 そして新年を迎える

 

 こうして無事に初詣を終えた俺達は、外食を楽しんで帰宅した。


 外食先でシャランスティが未だにミロットに『あーん』をしていたのには少し驚いたが、もっと驚いたのがそれを見たヘレナさんが兄さんにスプーンを向け、それに対抗した咲桜が俺にもしてきたのだ。


 顔から火が出るかと思ったが、取り敢えずは乗った。いや、その場のノリでな?ま、まぁ、こんな体験はあまり無いだろうから、好奇心が勝ったのもあるが。


 だから誰に言い訳してるんだ。


 それにしても、十人で外出、更には外食をしたのは初めての経験だったな。


 こんなに大人数で外出する機会は滅多にないから、実は終始わくわくしていた。


 そんなことは誰にも言わずに、俺達は各々用意された部屋へ戻る。


 俺と兄さん、ミロットは俺の部屋へ戻る。


 すると二人は部屋について早々に、再び外出の準備をし始めた。



「あれ、もう帰るのか?」



 日はまだ落ちておらず、逆に天高く昇っている。


 転移魔法で帰還するのだから、まだ日本に居て良いだろうに。


 そう思い、疑問を呈すると、ミロットが可愛らしい顔をこちらへ向け、



「お土産買うんだ〜!パパたちと一緒に行くんだよ!良いでしょ〜」



 純粋無垢な、満面の笑みで嬉しそうに答える。


 なんだ、そうだよな。まだ帰らないよな。


 深く安堵しつつ、ミロットに近寄る。


 その頭を撫でながら、オススメの店を教えてやった。


 ミロットの、兄弟で一番明るい色をした青い髪はとても触り心地が良く、いつまでも触っていたくなる。


 が、その感触もこれで最後。外出の準備が終わり、兄さんが部屋の扉に手をかける。


 と、不意に兄さんが俺の方へ向き──



「ん?お前はここにいろよ?オレたち、買い物終わったら直行で帰るぞ」



「え──」



 思わず持っていたバッグが手から滑り落ちる。


 淡々と兄さんは言ったが、いきなり過ぎる。


 本当に帰ってしまうのだろうか──。いや、兄さんはそんな嘘はつかない。じゃあ、本当に──



「そんな顔すんなよ。どうせ三ヶ月後にはこっちに来て貰うんだからな?仕事あるんだから、それまではこの生活を満喫しとけ」



 寂しさに心を痛める俺の鼓膜を、兄さんの男らしい、よく通る低い声が震わせる。


 やはり、兄さんは優しい。


 俺の寂しさを払拭するように、柔らかく微笑んで言ってくれる。


 その言葉に、救われる心が存在するのを感じる。


 俺は日本に来る前、何も取り柄が無かった。


 一応、国王の息子という立ち位置だが、俺の居場所は狭かった。


 兄さんの様に格好良くもなければ、ミロットの様に可愛さもない。


 特別頭が切れる訳でもなく、魔法や武術、剣術の才能は人並みだ。


 そんな俺は当然、国政に携わった事は一度もなく、故に俺が国に貢献することは無かった。


 そんな俺に、仕事がある。


 カリステアの、父さんの国の、力になれる。


 その事が、どれほど嬉しいか。


 それほどに信頼されるようになったのも全部、日本に来て、咲桜たちと出会ったからだろう。


 いや、元はと言えば、父さんが俺を日本へ転移させたから、か。


 まさか、父さんはここまでの事を全部仕組んで──


 って、考えすぎか。



「おい、独り言が多い。俺たちもう行くからな」



「お兄ちゃん、またね!」



 ミロットが元気に腕を振り、兄さんが呆れたようにひらひらと手を振る。


 あと四ヶ月で、カリステアに帰らなければならない。咲桜達と暫く会えなくなるのは悲しいが、ゲート作りの大役を担っているんだ。それが完成すれば、ずっと一緒にいられる。


 いずれ来る未来に心をときめかせ、俺も扉の外へ。


 玄関では、父さん、母さん、シャランスティ、ヘレナさんが既に支度を済ませ、待機していた。


 健蔵さんと美桜子さん、咲桜も、見送りをする為に玄関に集まっている。



「それでは、健蔵さん、美桜子さん、そして咲桜ちゃん。世話になったね。特に咲桜ちゃん、僕たちのイュタベラをよろしく頼むよ」



「ふぇ、ひゃ、ひゃいっ!」



「どんな声出してんだ」



 父さんがお礼を言って、玄関の扉を開ける。


 冬の冷たい空気が室内に入り込み、少し身震いする。



「じゃあ、本当にありがとうございました。あと少しの間ですが、お願いします」



「はい。任されました」



 すっかり仲良くなった健蔵さんと父さんが、互いに言葉を交わし合う。


 そして、お土産を買いに──カリステアへ帰還する為に、外へ出る。


 直前、兄さんだけがこちらへ振り返り、言う。



「言い忘れてたが、イュタベラ。お前、自分を卑下しすぎだ。お前は多分、カリステア家の誰よりも優秀だぞ」



 それだけ言い残して、六人は去っていく。


 たったの二日間だったが、久しぶりの家族との会話。非常に楽しめたと思う。


 兄さんの言葉の真意を考えながら、元旦は無事に終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ