第97話 初詣の真実
そうして、おみくじの件は終わる。
あの後もう一度引いて、何とか『小吉』で手を打った。
次はどこに行くのかと、父さん達と談笑している健蔵さんたちの後を着いてみれば──
「あれ、この道さっきも通らなかったか?」
見知った道、あまり整備されていない細い道路だ。それに、見たのはつい最近、というか、先程である。
つまりは──
「ん?後はもう外食して帰るよ?」
隣を歩く咲桜が、『常識』だと言いたげな表情で返答する。やはり、駐車場に向かっていたのか。
でも、流石に早すぎはしないだろうか?
ここへ来る時は、結構な渋滞だった。駐車場が空いてなかったので、それを待つ車が長蛇の列を成していたからだ。
そして、待つということは、それほど駐車場に車が止まっている時間が長いということ。
これらを踏まえ、もう一度言おう。早過ぎないか?
などと一人で考え込んでいると「前見なきゃ、危ないよ?」と咲桜から注意を受けた。さりげなく握られた手が離れる感触を寂しく思いつつ、道路を横断して駐車場へ。
やはり、止まっている車は同じ。つまりは、俺達と同じか、それ以前に来た人は、今もこの太宰府天満宮にいることが分かる。
三度言おう。
「なぁ、帰るの流石に早すぎはしないか?」
ドアノブに手をかける健蔵さんたちに言う。まだ一時間ほどしか経っていないのだ。あと二時間はいるつもりだったのだが。
俺のその声に、健蔵さんと美桜子さんがはっとした表情を見せた。
ほらな。帰りが早すぎると思ったんだ。
と、予想の的中に得意になっていた矢先、
「「そうだった!アレ買ってない!ちょっと待ってて!」」
と、皆で引き返すでは無く、健蔵さんと美桜子さんの二人だけで先の帰路を再び歩き出した。
追いかけなくて良いのだろうか。咲桜は呆れたようにため息を吐き、やれやれと頭を振る。
異世界組はついていけず、父さんと母さん、シャランスティとミロット、兄さんとヘレナさんに分かれて駄弁っている。
いや、別に俺はハブられてるわけじゃないからな。決して、断じて、孤立している訳では無い。咲桜がいるからな。
誰に言っているのか分からない言い訳を胸中でグルグルと渦巻かせ、健蔵さんと美桜子さんの帰りを待つ。
十数分後、二人の姿が見えた。満足そうな表情の二人は、両手になにやらビニール袋を提げている。
咲桜もほっとした様子で、今しがた開いた車のドアに手をかける。
いや、まだ俺の疑問は──
「いや、え、本当に帰るのか?」
何だか情けない声になってしまったが、その声は咲桜にはっきりと届いた様子。
車に乗り込み、座席に座りながら、咲桜は言った。
「うーん、ここってお参りとおみくじ以外殆どやることない気がする…」
「──なんというかまぁ、うん。だな」
少し遅れた返答を残して、俺たちの正月は幕を閉じたのだった。