第96話 割と当たりやすいやつ
休憩所を離れ、現在俺達はお参りをしている。
『天満宮』という名前の神社には、菅原道真という人が祀られており、学業に縁があるという。
咲桜は来年『受験』という、一つ位が上の学校に上がるための試験を受けるらしい。
その、受験に受かるように、こうして手を合わせているのだ。
俺は受験は無いから、咲桜の受験合格を願う。
拝み終え、目を開け、咲桜の方を見る。
同時に目が会い、思わず二人で笑ってしまった。
「合格、出来るといいな」
笑い合いながら、そう言って列から外れる。
列の外から見守っていた保護者(と異世界人)は、何やらみんなで盛り上がっているようだ。皆同じように桃色の薄く小さな紙を広げている。
向かうと、『おみくじ』というものをしていたようだ。
それぞれ悪い順に、『大凶』、『凶』、『末吉』、『吉』、『小吉』、『中吉』、『大吉』とあり、大吉が一番良いらしい。
何が良いかと言うと、運。
いわゆる、運試しというやつだ。
俺と咲桜で、桃色の札が沢山入った箱の中から、一枚を取り出す。
糊付けされた紙を開き、中身を確認。
「──」
そっと閉じた。
「咲桜、どうだった?」
同じくおみくじを引いた咲桜に問いかける。
が、まだ中身を見ていない模様。こっちまで緊張してくる。
「なんか、死ぬ訳でもないのにこういうのって緊張するね…えへへっ」
可愛らしく微笑み、意を決して中身を見る。
さて、咲桜の今年の運勢は──
「わぁ!大吉だ!ベラ、ほら見て!初めて引いたよ!」
大きく書かれた『大吉』の文字。咲桜の笑顔が眩しい。
よし、それじゃあ次の所に行こう。もっと屋台を見てまわりたい。
「お、おう、良かったな。それじゃあ、もう少し屋台を見ようか」
自分の引いたくじをポケットの中に入れ、咲桜の手を取り歩き出す。
さて、今度はどんな屋台があるかな?
「っとと、ベラ、そういえばなんだけど──」
いきなり手を引かれて戸惑った咲桜が何か聞いてくるが、その質問はもう読めている。なので、可哀想だが無視することにする。
「ベラ──ベラってば!もう…いいもん!おみくじ勝手に見るからね!」
「なっ──ちょ、やめ──あ」
咲桜の白く細い手が、俺のポケットを探る。そして、目的の物を探り当てると、それを両手で広げ──
「え、ベラ大凶!?大凶って初めて見たよ!」
あぁ、見られた。普通引くか?一番悪いものを。小吉とかでいいじゃないか。大凶は無いだろう…
心底落ち込む俺を見かねてか、何か思いついた様子の咲桜が顔をずいっと顔を寄せる。ほのかに甘いシャンプーの香りが鼻腔を掠める。
「ベラ、納得のいかないおみくじは、そこの紐に結べば大丈夫なんだって。これ、『常識』らしいよ。ふふっ」
そう言って咲桜の指さす方を見れば、確かに手元の物と全く同じ桃色の紙が、紐に無数に結び付けられている。
「ちょっと用事がある。すぐ終わるから先行ってて」
そう言って、咲桜と共に紐の場所へ向かう。
父さん達にバレないように、こっそりと紐に結んだ。
「──よし、これでいいのか?」
「うん、大丈夫。」
不器用故に歪な形になったが、何とか紐に結ぶことが出来た。
咲桜に確認をとり、先に行っている父さん達の元へ急ぐ。
「あ、俺が大凶だったことは秘密だぞ?」
合流し、他に聞こえないよう小声で咲桜に言う。
咲桜は、いつものように柔らかく、優しい笑みを浮かべ
「うん。二人だけの、ね」
そういって、顔を赤らめた。
「あれ、イュタベラお前大凶だったのか?あっはっは!俺でも凶だったぞ?」
「いい感じの雰囲気ぶち壊さないで。あと兄さんも人の事言えなくない?」