第92話 兄弟での時間
無事に新年を迎え、食器を洗い終えると、後は寝るだけ。
俺は歯を磨いた後、直ぐに自室へ向かった。
ミロットと兄さんの分の布団は、下の階から予め持ってきているので、それを床に敷き、ベッドに横になる。
直後扉が開き、兄さんとミロットが部屋の中へ。
「お兄ちゃん、もう寝てるの?」
「いや、起きてるな。心が読める」
「だからさぁ」
すぐに心を読もうとするのはやめてくれ。本当に。
とはいえ、可愛い可愛いミロットがまだ寝たくなさそうなので、布団から起き上がる。
先程の続きの話でもするか。
「イュタベラ、あのな」
俺が会話を切り出そうとすると、兄さんに先を越された。
割と真剣そうな顔をしているので、真面目に聞くことにする。
「あのな、実は──」
「あ、えっとね!お兄ちゃんって、どうして咲桜お姉ちゃんの事を好きになったのか聞きたいんだって!」
「んん???」
明らかに、何か言おうとした兄さんをミロットが雑に止めている。何を言おうとしていたのか気になるが、「何も聞かないで」というオーラをミロットが出しているので、とりあえずは乗ってやることにする。
「そうだな、簡単に言えば一目惚れだな。でも、話すとなると長くなる──」
そうして、俺は咲桜との日々を掻い摘んで話した。
体育祭、夏祭り、家族旅行に文化祭、修学旅行など、楽しかったあの日々の想い出を、一つ一つ、確かめるように。
俺が話す間、ミロットと兄さんは黙って聞いていた。俺も、改めて脳裏を過ぎる、あの溢れ出す想い出を言葉にしたくて。
そうして一頻り話終え、「こんな感じだな」と締める。
そして、黙って聞いていた兄さんとミロットは、顔を見合わせ──
「お前(お兄ちゃん)、咲桜(お姉ちゃん)さんの事本当に好きだな(ね)」
「まぁ、そう、なのか?そうだよ。あぁ、そうだ」
二人同時にそう言うが、自分でもそう思う。
若干呆れ顔の兄さんは、しかし直ぐにミロットに真剣な顔で耳打ちしている。こちらには聞こえないが、ミロットが嫌そうな顔をしている。
「なぁ、さっきから何が言いたいん──」
「あのな、えーっと…」
気になって聞いてみると、その声に被せて兄さんが申し訳なさそうな声を発する。
ミロットも、諦めたように拗ねている。
一体何なんだ?明らかに俺に何かを隠そうとしている。
何か想像してみるが、何も思いつかない。ゲートが作れなくなったとか?それなら、俺に言いたくないのも大いに納得出来る。
ただ、その可能性は殆ど無いだろう。
ミロットが、わざわざこっちに来てまで進捗の報告をしてくれたのだ。作れなくなるくらいのミスなら、とっくに見つかっているだろう。
だとすれば、何が──
「その、な」
「何?早く言ってくれ」
目を逸らし、未だ言葉にするのを躊躇っている様子の兄さん。先の言葉を促すと、覚悟を決めたようにこちらを向き、言った。
「イュタベラ、お前がカリステアへ帰る日が、早まった」