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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第二章 学生としての時間
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第8話 突然の来訪

 そうして月日はあっという間に流れ、1ヶ月。


 1ヶ月が経ち、分かった事がある。


 それは、日本(ここ)の生活は俺が元いた世界と殆ど似ているという事だ。


 時間の流れや物の呼び名、月日など、殆どの事が元の世界と同じだった。


 また、金銭で物を取引する事や、犯罪を犯せば警察が来る事も、元の世界と酷似していた。


 ただ、こちらに魔物や亜人は居ないようなので、生活に少し違いはあるが。


 正直言うと、ずっと日本(こっち)で暮らしていたい。魔物居ないから平和だし。


 しかし俺には、父から(無理やり)託された、『異世界の文化を取り入れる』という大仕事がある。


 その成果はまだ出ていないが、1つ、カリステア国(あっち)に帰ったら、報告しようと思う事がある。


 それが承諾されるかどうかと言えば、恐らくされないだろう。


 その提案は、全ての世界の常識を覆す事になりかねない。


 また、その報告が承諾されたとしても、どれだけの影響力があるのかを、俺は想像することが出来ない。


 故に、まだまだ日本(ここ)の事を知らねばなるまいと、改めて意気込んだ。



 そんな日だった。





『アイツら』が来たのは。

 ―――――――――――――――――――――――

 ─それは、突然の事だった。


 その日俺は、いつも通り咲桜と共に朝食を済ませ、『新聞』を読んで日本の現状について勉強していた。


 ピンポーン…


「あら、日曜日に来客?」


 と、『チャイム』が鳴り、キッチンで洗い物をしていた咲桜の母が反応する。


 1ヶ月が経ち、俺はここでの生活にすっかり慣れていた。


 学校は、教科書の内容を全て暗記したため、授業が退屈だが、数少ない友人と会える場所という意味では行くべき場所だ。


 咲桜の母は、「誰かしら」と独り言を漏らし、ドアの方へ。


 パタパタと『スリッパ』を鳴らし、ドアの前に立つと、直ぐに扉を開いた。


 直ぐに扉を開くと魔物に喰われるというカリステア国の迷信があったが、こちらの世界にはそういった物は無いようだ。


 扉が開き、奥から声がする。


 しかし、来客に興味の無い俺は、未だ新聞の文字を追っていた。


 ─その時だ。


「イュタベラくん〜、呼んでるわよ〜」


 そう言い戻ってきた母の隣に、見覚えのある人物が2人─。


「よ、よう、イュタベラ。久しぶりだな…?」


「あら、それなぁに?ベラ、私にも見せてぇ?」


 聞き慣れた声。しかし、その声は日本(ここ)で聞こえてはならない声。


「─父さんと、母さん…?」


 突然の訪問に、俺はその言葉しか紡げなかった。

 ―――――――――――――――――――――――

「改めて、私はカリオン・カリステアと言います。イュタベラが大変お世話になっているようで」


「んんん?ベラ、この『新聞』って言うのぉ?これ書いてる事難しくなぁい?」


「…あっちが、私の妻のタナーシャ・カリステアです…」


 それから俺たちは、取り敢えず家族全員を招集し、リビングに集まっていた。


 高峯家の前で、そう自己紹介(とマイペースを発動)するのは、俺の父さん、カリオン・カリステアと、母さんのタナーシャ・カリステアだ。


 父さんは、新聞を食い入るように見る母さんに呆れている。


 透き通るような青い髪に、光輝く黄色い目をしたのが父だ。部屋着である黒いローブを着ており、頭は出している。


 そして、未だ新聞を頑張って読んでいる、全てを焼き焦がすような紅い瞳と髪をしたのが母だ。


 母も、部屋着の白いローブを身にまとっており、こちらも頭を出している。


 そんな父と母を見て、咲桜の父と母は…なんかゴチャゴチャしてるな。


 そんなカリオンとタナーシャを見て、咲桜の父と母は、2人に頭を下げた。


「いえいえ。こちらこそ、咲桜を良くしてもらっています。学校も、イュタベラくんが来てから楽しそうです」


 と、そう言うのは咲桜の父である。


 話題に出た咲桜は、「お父さん!」と自分の父の肩をポカポカ叩いている。


 その親子の微笑ましい光景を見て、カリオンは微笑を湛える。


 と、新聞に飽きたのか、会話を見ていたタナーシャが俺に抱きついてきた。


「私達も仲良しよねぇ」


「どこ張り合ってんの!?」


 俺の頭に、タナーシャの豊満な胸が押し付けられる。


 これは父さんにやってやれ。父さん、俺の事殺しそうな目で見てる。


 ─そんな仲良し親子対決はさておき。


「てか、なんで父さんと母さんがここに居るの?」


 と、最初に抱いた疑問を、カリオンとタナーシャにぶつける。


 それに対し、タナーシャは「これなぁに?」と咲桜の母を連れてキッチンへ。相変わらずマイペースだな。


 と、母さんは別によくて。


「実は、転移魔法を使うのは初めてでな。最近知ったんだが、異世界は幾つもあるように見えて、実は少ないらしい。」


 と、咲桜の父に促され椅子に座った父が語り始める。


「それで、調べた所僕の魔法で行けるのは日本(ここ)だけらしい。それと、あれ使うと1ヶ月魔法使えなくなるらしいんだよ。いやぁ、魔獣駆除とか苦労したよ」


 やれやれと、カリオンは首を振る。


 こっちがやれやれだよ。


 そして、「それで」とカリオンは言葉を続け、


「流石に無理やり転移させたのはアレかな〜って思って、心配で1ヶ月越しに顔見に来たんだよ」


 そう話すカリオンは、「無事で良かった」とほっと胸を撫で下ろしている。


 取り敢えず捨て子にならなかった事を確認した俺は、再び疑問をぶつける。


「それで、心配で来たのとは別に何か用があるんでしょ?」


 そう言った瞬間、カリオンは目を見開き、やがて観念したのか、「バレたか〜」と言葉を紡ぐ。


「実はなぁ」


 そう言って1度言葉を区切り、間を空ける。


 俺は無言で続きを催促すると、一呼吸置いてカリオンが口を開いた。





「異世界の文化の視察の件、無しでいいよ」

 ―――――――――――――――――――――――



「─は?」


 突然のカリオンの申し出に、俺は驚きで言葉が出ない。


 いきなり無しと言っても、こちらが困る。


 それに、やっとこちらの世界の生活に慣れてきたのだ。俺も、ここでの生活をもう少し楽しみたい。


「な、なんでいきなり…?」


 色々疑問はあるが、今の1番の疑問を投げかける。


 するとカリオンは椅子の背もたれに寄りかかり、腕を組むと、



「1ヶ月前はいきなり仕事の為に異世界に転移させたけど、さっき言った通り後々心配になったんだよ。向こうでは何が起きるのか全く予想が付かないからね。親として、仕事の成功より子の身の安全を守りたいんだよ。いや、どの口が言ってんだって話だけどね」



 と、自虐しながらカリオンがそう語る。


 ─その言葉には、内容通りの、子を心配する優しさに満ちた感情が乗せられていた。


 しかし、だからと言っていきなり帰るのは嫌だ。親が親として心配するなら、子供は子供らしく、我儘を言いたい。


「ここには魔獣も居ないし、警備も手厚い。俺に危険が及ぶことは殆ど無い。だから、もう少しここに居たい。だめ?」


 そう言うとカリオンは、「やれ、困ったな…」と呟きながら、しかしここに残すつもりは無いようだ。


 あと少し。あと一押し何かあれば。


「あの、すみませんが1ついいですか?」


 と、そんな中割って入ったのは、あろう事か咲桜であった。


「ん、君は咲桜ちゃんだね。イュタベラが世話になってるよ。で、なんだい?」


 カリオンの返答に、咲桜は緊張しているのか、1度深呼吸すると、続けた。


「日本の文化を、そちらの世界に取り入れるのは、諦めたんですか?」


 そう咲桜が、真剣な表情で問いかける。


「いや、諦めてはいないよ。でも、先にも言った通りイュタベラの身の安全を確立したいからね。仕方なし、という形だよ」


 「機を待ってまた来るつもりではあるけどね」と最後に続け、カリオンは机に出されていた、もう冷えている紅茶を啜る。


 先の主張から、1歩も引くつもりは無いようだ。


 と、それを聞いた咲桜は手を顎に当て、何やら考え込んでいる。


 ─沈黙が流れる。


 まだここに居たい。でも、父さんを説得する術が、俺には無い…。


「あの〜」


 と、沈黙を破る声がした。


 その声を発したのは、今までの会話を静観していた、咲桜の父だった。


「イュタベラくんに危険が及ばないか心配だから、1度目的を保留するんですよね?」


 先程の会話を簡潔にまとめ、カリオンに確認をとる。


 カリオンは腕を組んだまま頷き、「そうですね」と一言。


 すると、同じ様に腕を組んだ咲桜の父は、「そうですよね」と続け、


「ですが、生憎ここは世界一と言っていいほど安全な国です。イュタベラくんに危険が及ぶことは、万が一にもありません」


 その、根拠になっていない根拠に、カリオンは「うーん」と声を唸らせる。あと一押しか…?


 と、考え込むカリオンに、再び咲桜の父が口を開いた。


「それでは、提案があります」


 右手の人差し指を立て、カリオンに提案する咲桜の父。


「何でしょう?」


 カリオンは顔を上げ、首を傾げた。提案内容によっては、俺はここに残る事が出来るかもしれない。


 そんな希望を抱きつつ、俺は咲桜の父の提案に耳を傾けた。


「カリステアさん御一家、ここに住んで、日本(ここ)が危険かどうか確かめて頂くのはどうでしょうか?」


 と、どこか聞いたことのあるような提案を、カリオンに─いや、カリステア家に、提示したのだった。

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