第88話 大晦日だよ、イュタベラくん
こうして、様々な進展があったクリスマスは終わりを迎え、今年最後の行事が幕を開ける──
「今年ももう終わりだね〜。早いなぁ」
「ん、そうだな。色々あったが、楽しかったな」
「ベラはそうだよね…。あ、私達もだ、えへへ」
今はまだ冬休み。咲桜とのんびりソファで寛ぎながらテレビを見ている。
あの日から咲桜はめでたく恋人になった訳だが、だからといって特別何かある訳でもなく、今まで通り過ごしている。
そんな他愛のない会話を楽しみつつ、俺は残りの冬休みと、日本での生活を謳歌していた。
「あ、大晦日スペシャルあるかな?ちょっとチャンネル変えるね」
「ん、わかった。──ん?ちょっと待て、このニュース…」
咲桜がチャンネルを次々と切り替える中、あるニュースが目に留まる。
「うん?これのこと?──あれ、もしかして…」
咲桜も違和感に気づき、眉をひそめる。
『──繰り返します。本日午前九時頃、京都府と奈良県の県境にて、謎の光の様なものが出現しました。この映像を撮影した、京都府在住の──』
テレビでの映像とともに、女性の声が淡々と告げる。
その映像に映っていたのは、天をも貫く、大きな円柱状の白光。それは、この世界──日本には存在しえないものだ。
しかし俺は、直感的にそれが何か分かってしまった。それが正しければ──
「これ、ベラの──」
「兄さんかミロット、父さん、母さんの誰かだな。まったく、みんな暇なのか?」
「それ、今のベラにも同じこと言えるよ??」
咲桜の言葉にはっとしながら、取り敢えずはアニメを見た。
──その日の午後。
「いやー、ごめんねサク、イュタベラくん。お店混んでて遅れちゃった」
「代わりにお菓子とか色々買ってきたから、テレビでも見ながらだらけよう。今日くらいは良いだろうから」
玄関の開く音がし、美桜子さんと健蔵さんが買い物から帰ってくる。
カリステアでは年越しには祭りを開いて皆で祝うのだが、日本では大半の人は家でだらけるようだ。祭り楽しいんだけどなぁ。
まぁ、郷に入っては郷に従えって言うらしいしな。今年くらいは怠けていいだろう。
咲桜と共に、午前と変わらぬ隣同士の位置でテレビを見ながら、突如来る眠気と戦う。
と、その時だ。
──ピンポーン
滅多にならないインターホンが鳴った。
直後、今朝のニュースが思い出される。
異世界から日本には来るのには莫大な量の魔力が必要となるが、同じ世界での転移にはそれほど魔力を消費しない。
そして今朝観測された、謎の光──。あれは、転移魔法によるものだ。だが、気になるのは──
「前までこんなこと無かったのに…」
今まで、父さんと母さん、ミロット、そして兄さんとヘレナさんが日本には来たが、こんな光が観測されたことはなかった。あんなに大きな光、見逃すことは無いはずだ。
なら、一体なぜ──
インターホンが鳴り、それに反応して美桜子さんが玄関へ向かう。
パタパタとスリッパの音が心地よい。
そして同時に、右肩に重みが。
そっと右を見れば、そこには──
「さっきから静かだと思ったら、寝てたのか」
静かに寝息を立てて眠る咲桜が、俺の肩を枕にして寝ている。
以前なら恥ずかしくて直ぐに起こしているが、最近はそっとしている。
そこへ、美桜子さんが玄関から戻り、俺に告げる。
「イュタベラくん、御家族が来てるわよっ!今日は泊めるわね!」
「あぁ、やっぱりですか。放置しててもいいんですけど…」
やはり、ここに来たか。さて、誰が来たかな?
寝ている咲桜の頭を反射的に撫でつつ、美桜子さんが連れてくるのを待つ。
そうして、美桜子が案内したのは──
「お久しぶりです。あれからイュタベラは元気ですか?」
「あらぁ、ベラと咲桜ちゃん?仲良しねぇ。左は私が貰うわぁ」
「ここがお兄ちゃんが住んでるとこなんだね!広くてきれー!」
「ミロット様、走り回ると転びますよ」
「ヘレナ、予知はあってたな」
「イュタベラくんと咲桜さん、経緯は分かりませんが、近いうちに結ばれるのは見えてましたから」
カリステア一家+メイド長&婚約者が、異世界転移してきたのだった。