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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第八章 想いを形に
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第85話 とある日の企み

 

 そのアイデアが浮かんだのは、日本に打ち解けてきて、少し生活での緊張が解れた時。


 日本に来たばかりの頃は、とにかく咲桜と一緒にいた。この世界の常識を知るために。いや、その時からもう、『咲桜と一緒にいたい』という考えが、頭のどこかにあったのかもしれない。


 咲桜はテレビでアニメを見るのが好きで、咲桜といた俺は必然的にそのアニメを見ていた。


 アニメは漫画のように様々なジャンルがあり、その中でも咲桜は、『異世界』をテーマにした作品を好んでいた。


 その中では、魔法を使って魔王とやらを倒したり、はたまた、快適なスローライフを送ったりと、作品ごとに違った趣旨があり、俺もハマっていた。


 魔法の描写は少し過激だったが、俺たちが扱う魔法と似ていて、日本人の想像力の高さが伺えた。


 その、魔法を使うアニメを見ていた時だ。



「ベラって、こんな風にいかにも人殺しますよ〜みたいな魔法って使えるの?」



 テレビ画面、紅く輝く火球を主人公が手のひらから出している場面を指さし、咲桜がそう問いかける。


 以前、この世界で魔法を使ったことはあるが、問題が起きたため今は封印している。



「頑張ればできそうだが、まぁそんな魔法使う場面がないな。魔獣が怖いといっても、ここで言うところの野生の熊のようなものだし」



 火系の魔法は練習中だが、得意の風と水魔法では、このくらいはできそうな気がする。というか、魔法で生き物を殺そうと思ったことがない。使えるようになったとしても、使う機会がなさそうだ。


 と、テレビでは次の場面へ。主人公の仲間で、ローブを着た女性の魔道士が、敵に向かって何かを投げる。



「あ、じゃあこういうのは?私も魔法使ってみたいんだけど」



「いや、まずあれはなんだ?投げるだけで相手が氷漬けになってるんだが…」



 魔道士が投げた小さな玉のような物は、投げるとたちまち着地点が氷漬けになり、敵が氷塊と化していた。なんと恐ろしい…。


 咲桜が目を輝かせながら、そう問いかける。倉庫での一件があったのに、また魔法に対して前向きとは、恐れ入るな。



「え、ベラのとこって魔道具ないの?じゃあ、魔法陣かいて魔法発動!とかは?」



 目を丸くして、心底驚いた表情の咲桜。そんな顔されても、知らない物は知らないんだ…。


 あ、でも魔法陣はあるな。



「魔法陣はあるけど、魔道具ってのはないなぁ。どんな物なんだ?」



「えっとねぇ、魔道具っていうのは、魔法陣が予めかかれてる物の総称で、そこに魔力を流すと魔法が発動するって感じかな?」



「──!」



 淡々と説明する咲桜。しかし、俺には衝撃が走っていた。


 なんと、画期的なのだろうか。確かにこれなら、誰でも簡単に魔法が発動できるようになる。


 魔力を流す、というところを何かに置き換えれば、魔法学界の常識が変わるぞ…。


 あ、そうか。この世界では、スイッチを押せば、電気が付いたり、火が出たり、水が出たりする。


 ということは、魔道具に予め魔力を流して、魔法が発動しないように魔法陣と魔力を隔離。そして、スイッチを押せば、魔法陣に魔力が流れる。


 こうすれば──。


 思い立ったら、やるしかない。



「ベラ?どうしたの、そんなに考え込んで…」



「咲桜、紙を持ってきてくれないか?」



「え、いいけど──」



 ソファから立ち去り、数秒後、紙を持った咲桜が俺の隣に。



「これを、こうして、ここに魔法陣、ここに魔力を注いで、スイッチは──できた!」



「うわっ、ビックリしたぁ…」



 つい大声を上げてしまった。


 できた魔道具を咲桜に渡し、説明する。



「その紙には、少量の火が出る魔法陣がかかれてる。紙に切込みがあるだろ?そこに、小さくて細長いその紙を差し込んでくれないか?」




「え?えっと、これかな?てか、魔法陣って光ってるイメージだけど、鉛筆でいいんだ…」



 少し残念そうな咲桜だが、俺に言われた通りに紙を持った。


 この世界の人間に、魔力はない。


 しかし、俺の予想が正しければ、これで──



「えっと、これを差し込むんだよね?いくよ?」



 そうして、切込みに紙を差し込む。すると──



「わっ!火が、火が出た!すごい!」



「よっしゃ!」



 咲桜の手元、その紙の上に、少量の小さな炎が、弱々しく顕現した。


 成功だ。



「ベラ、これ熱くないよ?すごい!私が魔法使った!」



「これが、これがあれば──」



 その時、思いついたんだ。


 ずっと、悩んでいた。


 日本にいつでも行ける、素晴らしい魔法はないかと。


 クイック・サモンは、使うと一ヶ月は魔力が使えないため、いつでもという訳では無い。そもそも、使うには膨大な魔力が必要だ。俺には使えない。


 だが、この『魔道具』というシステムを使えば、どうだろうか?


 父さんに魔法陣をかいてもらい、魔力も流してもらう。そして、このようにスイッチを付ければ…?


 媒体はゲート型にして、鍵をかける。そして、ゲートに行く人に鍵を渡せば…。


 誰でも、異世界に行ける!


 日本人は異世界への興味が尽きていない。


 日本にもゲートを作れば、カリステアに来る人が必ずいる。


 そうすれば、当初の目的、異世界の文化を取り入れるという目的が達成されるのではないか…?


 そして、日本側はカリステアの資源を調達することが出来る。


 ──これは、父さんに報告だ──。



 ――――――――――――――――――――――



 そして、現在に至る──

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