表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第八章 想いを形に
82/123

第81話 この思いをあなたに

 

 ゲームセンターを出た俺たちは、昼食をとるため、この寒い歩道を歩いていた。


 ゲームセンターは初めて行ったが、とても楽しかった。


 が、しかし──



「あ〜、咲桜?そろそろ機嫌治そ?な?」



「ふん、知らないもんっ」



 ぷい、と顔を背ける咲桜。


 そんな態度も画になる咲桜だが、こうなった原因は明白。


 そう、それは、つい先程、ゲームセンターでの事──



 ――――――――――――――――――――――



『おめでとう!景品を受け取ってね!』



 目の前の機械から流れる、少女の音声。そうして足元を見下ろせば、たった一回の挑戦で手に入ったフィギュアが、透明な板の奥に転がっている。


 板を押しのけ、フィギュアを取り、景品を入れるための袋を貰って、その中に入れる。



「──いや、流石に上手すぎる。一回で取るってのは中々ないんじゃないか?」



 俺はゲームセンターに来たのは初めてで、このクレーンゲームも勿論初挑戦だったのだが、それにしては上手かったのではないだろうか?


 それとも、この台がとても易しく作られているのか…


 いずれにせよ、これで咲桜にプレゼントすることができる。そう思い、左を見れば──



「〜〜っ!」



 未だ取れず、半泣きになっている咲桜がそこにいる。


 何回目かは分からないが、もう少しで取れそうな所まで景品が移動している。が、それまで。それ以降はずっと動いてないようだ。


 ──余計かもしれないが、手伝ってあげよう。



「咲桜、ちょっとそれ、させて貰えないか?」



「うぅ〜…ベラこれやるの初めてでしょ?私がやった方が…って、それ──」



 咲桜の潤んだ瞳が見つめる先は、俺の右手、フィギュアの入ったビニール袋だ。


 中が透けているため、どのフィギュアか分かったのだろう。潤んだ目を見開き、驚いた表情を見せる。



「あぁ、さっき取れたんだ。これみたいに一回で取れるとは思わないが、ちょっと手伝わせてくれ」



 そう言って、咲桜の返事も待たずに硬貨を入れる。



「あ──」



 咲桜が声を漏らすが、今は無視。咲桜の仇は取らせてもらう。



「あと少しだが──」



 この台は、並行に配置された二本の棒の上にフィギュアが乗せられており、それをずらして棒の間に落とす、というものだ。


 フィギュアは斜めに大きく傾いており、あと少しずらせば落ちるだろう。


 だが、それが難しいのだ。少しでも奥にクレーンを動かしてしまえば、奥の棒に腕が当たり、取れない。


 逆に手前で止めてしまえば、箱の表面に腕が当たり、取れない。


 棒にギリギリ乗っている、箱の角。それを丁度狙わなくては。



「ふーっ、よし、いこう」



 深く深呼吸して、集中力を上げる。


 そして、横へ進むボタンに手を置き、もう一度深呼吸。


 押す。クレーンが右へ動く。


 離す。クレーンが止まる。良い位置だと思う。


 次、奥へ進むボタンに手を置く。


 押す。クレーンが奥へ移動する。


 離す。クレーンが一度止まる。


 腕が開き、クレーンが下へ移動を始めた。



「いけそう…」



 思わず声が漏れる。咲桜は無言で見守っており、その視線に体が強ばる。


 軽快な音と共に、クレーンはフィギュアへ向かってその腕を伸ばす。


 ──狙い通り、箱の角へ腕が滑り込んだ。


 限界まで下がったクレーンはその腕でフィギュアを抱きしめ、再び上へ。



「おお…!」



 角を持ち上げられた箱は、そのままクレーンの腕に従って左へ傾く。


 そして、腕からその角が滑り落ち──



『ガタンッ』



 大きな音と共に、フィギュアは落ちた。



「やったぞ、咲桜!」



 嬉しさのあまり、大声を上げて咲桜へ振り返る。


 が、しかし──



「…むぅ」



 そこには、不満気な顔をした咲桜が立っていた。



 ――――――――――――――――――――――



 というわけだ。


 咲桜がやっても取れなくて、クレーンゲームを初めてする俺が一発で取ったんだから、プライドが傷ついたのだろう。


 こういうとき、どうすればいいのだろうか?


 ──う〜ん、少し考えたが、分からない。


 俺がされて嬉しいと思うことをすれば良いのだろうか?


 俺のプライドが傷ついたら──う〜ん、別にどうでもいいな。うん。


 じゃあ、咲桜にされて嬉しい事──



「──。」



 思い浮かんだが、実行するのははばかられた。


 なんせここは、一般人が多数出歩く普通の歩道である。


 流石に──


 いや、そうか。俺が咲桜にされて嬉しいと思うのは、俺が咲桜の事が好きだから。


 とすれば、俺が咲桜にされて嬉しいことを、逆に咲桜にする、という理論は間違っている。


 思考を一旦リセット。どうにか、この微妙な空気を打破しなければ。


 とりあえず、何か話題を──



「なぁ、さく──」



「ベラ、ごめんね。」



 振ろうとした、その瞬間。俺の声を遮ったのは、唐突な咲桜の謝罪だった。


 しかし、意味がわからない。何故咲桜が謝ったのか?



「いや、ごめんって、なんで──」



「だって!ベラは博多初めてだし、私は結構行ってるから、リードしてあげなきゃ、楽しませなきゃって思ってたのに、ベラに助けられてばかりで──」



 そう言う咲桜は、相変わらず顔を下に向け、目を合わせようとしない。


 思えば、咲桜は今日、妙に緊張していた気がする。


 本屋に行った時も、アクリルキーホルダーを見せた時も、不満そうな、不安そうな、そういった表情をしていた。


 先程のゲームセンターでの事も、もし、プライドが傷ついた、という理由ではなく、俺を楽しませることが出来なかった、という理由で不満を漏らしていたのだとしたら──。



「だから、その、迷惑かけて、ごめ──」



「いや、謝るのは俺の方だ」



 それは、どれほど嬉しい事か。



「ふぇ…」



「ごめん、咲桜がそんなことを思ってくれていたと、気づいてあげれなかった。俺は、ずっと楽しいよ。咲桜とゲームセンターで遊んだことも、咲桜と博多へ来たことも──咲桜と、こうしてデートしてること自体、俺には勿体ないくらい幸せで、楽しい」



「──っ」



 感情に任せ、言いたい事を全部言ってしまったが、これで良い。


 これらは全て、本心なのだから。



「あ…ぇ…」



 咲桜がこちらに向き直り、目が合った。


 その目には大粒の涙を浮かべ、頬は赤く染まっていて──。



「だから、ありがとう。午後もリードしてくれよ?」



 と、冗談交じりに、なるべく笑顔でそう言った。


 するとつられて咲桜も微笑む。


 そうして、目に浮かぶ涙を手で拭い、言った。



「うん、デート成功させるねっ」



 ──あ、デートと言ってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ