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誰か異世界の常識を教えて!  作者: 三六九狐猫
第八章 想いを形に
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第80話 上手い人がやってるとこみると、自分も出来ると錯覚する

 

 本屋を出た俺たちは、咲桜の提案で『ゲームセンター』とやらへ行くこととなった。



「ねぇ、ほんとにベラが行くとこないの?ほんとに?」



 などと言っているが、俺が行くとすれば、カリステアへの土産として雑貨屋へ買い物に行くくらいだ。咲桜は喜んで着いてきてくれるだろうが、最近は『土産』やら『カリステア』やら言うと、咲桜が露骨に悲しむからな。


 それだけ、俺に帰って欲しく無いのかと思うことは、自惚れだろうか?


 といった具合で、「大丈夫、咲桜が行きたいところに行きたい」と返答し、こうして博多の道を歩いている。


 ゲームセンターへの行き道なのだが、この風景が何とも新鮮だ。


 咲桜の家の近くには森があり、自然溢れる良い場所だったのだが、この博多は文明が発達している。


 見渡す限りの建物の森が、この街を構成しているようだ。カリステアが魔術、咲桜の家の近くが自然で構成されているとすれば、ここは科学で構成されていると言える。


 しかし、そんな科学の街でも、自然はある。



「──綺麗だな」



「え、私?えへへぇ」



「違う、その川だ」



 咲桜は確かに綺麗だが、何となく可愛いという印象が強過ぎる。故に咲桜が綺麗というと、少々違和感がある。まぁ、当の本人は拗ねているが。


 その咲桜の奥、橋の下には少し大きめの川が流れている。


 反対側では車が耳をつんざくような轟音を発しているが、この川のせせらぎは自然と耳に入ってくる。


 時々聞こえる鳥の声も、また良い。



「ベラ、気に入った?」



 ふいに、そんな問いがすぐ隣から聞こえた。


 見れば咲桜は、天使のような微笑をたたえてこちらを見つめている。


 その視線に若干鼓動を早くしながら、「あぁ、とても」とこちらも微笑み返した。


 が、ぎこちなかったせいか、顔を逸らされた。悲しい。


 そんなやり取りを繰り返し、俺たちは目的の建物へたどり着いた。


 とても広い建物で、十階建ての建造物が数多く並んでいる。


 俺たちはその中の一つへ入り、本屋と同じエレベーターを使って三階へ。


 先程から足取りの軽い咲桜の後に続く。中は清潔感が溢れており、大きな建物の割に隅々まで掃除が行き届いている。


 うん、壁も一面真っ白。店の看板も光の反射が分かりやすい。


 周りにばかり視線を泳がせていると、急に咲桜が立ち止まる。ぶつかる寸前で気づき、咲桜に倣って立ち止まる。


 すると咲桜は俺へ視線を送り、一言。



「今から、戦場だよ」



「ん?」



 その意図が読めず、素っ頓狂な声をあげるが、咲桜はお構い無し。何事も無かったかのように両手を上げ、


「久しぶりのゲーセンだ〜!フィギュアいっぱい取ろっと!」



「え、いや盗ったらダメだろ?」



「違う!『盗る』じゃなくて『取る』!」



 異世界ジョークを交えつつ、これまた自動ドアで中へ。


 にしても、戦場ってどういう事だ?日本に魔獣はいないことは分かっているし、この世界は比較的平和だ。


 戦場となれば俺も相応の覚悟をすべきだろう。


 そう、構えていたのだが──。



「あ゛〜!!あとちょっとだったのに!あと一回で取れる!これは取れるよ!」



 中へ入ってみれば、俺の覚悟は霧散し、周りの客の嬉声や歓声が五月蝿い。


 咲桜は入るなり奥へ奥へと足早に進み、目的の場所へ到達したのか、足を止め、目の前の大きな透明な箱と向き合った。


 この透明な箱(UFOキャッチャーと言うらしい)、実に面白く、硬貨を入れれば稼働し、中にある『クレーン』と呼ばれる、円盤に肘を少し曲げた腕が着いたようなものを、手元のボタンで動かし、中にある景品を穴に落として取る、といった造りになっている。


 簡単そうに見えて、案外難しそうだということは、咲桜の反応から容易に想像できる。


 この場にはこの一台だけでなく、数十台にもわたって、様々な景品を入れた種類の物が並んでおり、俺としては見るだけでも楽しい。


 この際だから、俺も経験しておくか。


 咲桜に何が欲しいか聞こうとしたが、集中しているようなので辞めておいた。


 しかし、咲桜が苦戦を強いられている機体の二つ隣に、俺でも知っている、咲桜が好きな小説のキャラクターのフィギュアがある。


 折角だし、取ってみるか。


 未だに目の前のフィギュアと戦っている咲桜を見習い、長期戦に向けて覚悟を決める。


 周りを見た所、このUFOキャッチャーには様々な種類があるようで、景品を少しずつずらしながら穴に落とす台や、景品に付いている輪を利用して腕に引っ掛け、穴に落とす台、沢山積み上げられた物を崩す台など、どれも楽しそうだ。


 そして、俺の目の前にあるのは、少しずつずらして穴に落とす台だ。フィギュアが入った箱が、奥と手間に二本設置された棒の上に乗っている。左側へ行くにつれて棒の間隔は広がっているため、この台はフィギュアを左側へ持っていくのだろう。


 硬貨を入れ、台を起動する。


 右側に向いた矢印が描かれているボタンと上側に向いた矢印が描かれているボタンを駆使して、中にあるフィギュアの箱を狙う。



「ん〜、大体…このくらい…か?」



 入口で、咲桜が戦場と言っていた意味が、今なら分かる。確かにこれは、中の景品との戦い。案外神経をすり減らす。


 最後のボタンを押し終えれば、自動でクレーンが下がり、フィギュアへ向かってその腕を伸ばす。


 左側へフィギュアを寄せるため、クレーンの位置を少し左側に寄せてある。計算だと、あと四、五回で取れる。──そう、思っていたのだが。



「よし、そのままずらして──え?」



 クレーンの腕は、予定通りフィギュア箱をすくい上げ、左側へずらす準備をしていたはず。


 しかし、何がどうしたのか、持ち上がった箱の角はそのまま左側へ数十度横回転、その反動で箱の奥がクレーンにすくい上げられる形になり、そのまま箱は横向きになって、大きな音とともに下へ下へと吸い込まれ──



『おめでとう!景品を受け取ってね!』



 その音声と共に、フィギュアが俺の手元へ舞い降りた。

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