第79話 初見じゃ何が何処にあるか分からない
博多へたどり着き、俺たちが最初に向かったのは、とある本屋。
もちろん、行こうと言い出したのは咲桜。なんでも、ここで本を買うと、特典としてアクリル製のキーホルダーがついてくるのだそうだ。咲桜が食いつくわけだ。
外観は、行飛と昨日行ったショッピングモールより、少し大きいくらいだろうか。五階建てで、目的の本屋は三階にあるらしい。
電車の時に見た透明な自動ドアを通り、エレベーターという、自動で上下の階に移動できる便利な箱を用いて、三階まで一気に上がる。
三階、本屋──。
「はぁぁ〜。これだよこれ、この雰囲気。そしてエレベーターの扉が開いた瞬間に目前を埋め尽くす大量の本。あぁ〜、最高」
エレベーターの扉が開くなり、かなり饒舌になる咲桜。とはいえ、声はいつもの二十分の一程に押さえている。場を弁えているようで、安心した…。
エレベーターから出て、視界を埋め尽くす書籍の迷宮に足を踏み入れる。
実は本屋には初めて来るのだが、なぜか懐かしさを感じる。
咲桜から借りた本を毎日読んでいるからだろうか?とても落ち着く。
というか、咲桜はどこだろうか?建物内は本当に迷宮のように、自分の背丈より少し高い本棚が所狭しと並んでいる。四方八方、本、本、本──。
しかし、この店内で大声で呼ぶ訳にもいかず、地道に足を使って探す事に。
「ほんと、好きな物のことになると周りが見えなくなるんだよな…。あれ、この漫画の新刊、見たことないな。咲桜持ってるのか?」
咲桜を探している最中で、新刊を見つけつつ、自分がすっかり日本に染まっているなぁ、と実感する。
新刊と思しき一冊を取り、再び咲桜を探し初め──
「あ、ベラこんなとこにいたんだ。もう、脇目も振らずにす〜ぐどっか行ったら迷子になるよ?子供じゃないんだから…。あ、その新刊買ったよ」
「すぐどっか行ったのはどっちだ…」
呆れてため息を吐く。
持っている本は元に戻した。
見れば、咲桜の右手にはビニール袋がぶら下がっており、その中には透けて、先程手に取った本がある。
「それが目的の本だったのか。特典貰えたか?」
「うん。サナミナのアクキー、取ったど〜」
「あ、うん」
声量は抑えているものの、その表情からどれだけ嬉しいのかは手に取るようにわかる。
そのテンションには着いていけず、適当に返事をしたが、それに対して咲桜は不満気な表情。本当に、コロコロと表情が変わるな。見ていて飽きない。可愛い。
そして咲桜は、俺を改めて見つめ、
「ベラは?何か気になるものはあった?」
首を傾げ、微笑みながら問いかける咲桜。しかし、ここにもう留まる気は無いのだろう。先程から右手のレジ袋がガサガサと音を立て続けている。正直、五月蝿い。
ならば──
「俺は大丈夫かな。外に出たら、アクリルキーホルダー?ちょっと見せてくれ」
「──!もちろんっ!」
「あ、咲桜、しーっ」
思わず大声を上げ、咄嗟に自身の口を手で塞ぐ。
その歓喜の声を店内に残し、この場を去った。