第78話 いざ、博多へ!
「あれ、そういえばベラってオフで電車乗るの初めて?」
「オフがいまいち分からんが、修学旅行を除いてはこれが初めてだな。あっちに電車がないのもある」
駅(カリステアで言うところの停馬所)に何とか時間内にたどり着いた俺達は、現在もうすぐ来るらしい電車を待っている。
思えば、修学旅行からもう二週間近く経つのか。時間の経過が早い…。
って、何だか年寄りみたいだな。
そう思いながら、俺は紺色のパーカーのポケットに手を入れ、その中の『カイロ』で手を温める。カイロというのは、理屈は分からないが、振れば暖かくなる掌サイズの防寒具だ。
対して咲桜は、黒いパーカーに身を包み、首元に巻いた紺色の自作マフラーで暖をとっている。あれを自分で作れるとは、咲桜も中々器用だな。というか、その電車の待ち姿が非常に映えている。
「似合ってるな、その服」
思わずそう呟けば、咲桜は「そお?」と嬉しそうに微笑み、
「ベラも、似合ってるよ。服なんかどれも同じだって言ってたのに、結構オシャレしてるじゃん」
そりゃ、昨日行飛に言われて一時間ほど迷った末に選んだ服だからな。
と、何気ない会話をしていると、唐突に響く機械音。
「あ、見えたよっ!」
咲桜が指差す方へ視線を向ければ、大きな鉄の箱──電車が、こちらへ向かって猛突進している。
「ん?修学旅行の時に乗った物と違くないか?あんなに四角だったか?」
電車を見るなり、視覚の情報と記憶の情報に齟齬が生じている。修学旅行の時はもっと細く、丸みがあった様な…?
と、その質問に咲桜が「あぁ〜」と声を発し、
「修学旅行のときのやつは、『新幹線』だよ。これは『電車』」
「なんか…面倒くさいな」
「それ、鉄道マニアが聞いたら殺されるよ」
正直な感想を述べると、咲桜が少し悪役の様な笑みを浮かべる。可愛い。
と、そんな事を言っている間に、電車は俺たちの目の前へ。扉が自動で開き、人々がその中へ入っていく。未だにこの自動ドアの仕組みが分からない。後で調べよう。
「ほら、早く行こっ」
俺の手を、咲桜の手が握る。その手は、この冬の寒さを忘れさせてくれるようだった。
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そうして、電車に揺られて約三十分。扉が開けば、そこは──
「博多だ〜っ!まずどこ行く?どこ行く?」
「待て、酔った…そんな揺らされると…うっ」
酔いを覚ますのに五分ほど使い、咲桜とのショッピング──いや、デートを開始した。