第77話 クリスマス・イヴだよ
その後、昼寝──いや、夕寝をして、いつも通りお風呂に入り、夕飯をいただいて、本を読んだ後に今日を終えた。
そして、翌日。
決戦の日、クリスマス。
昨晩は気分が高揚してあまり眠れなかったが、目覚めはあまり悪くない。寧ろ良い。
そういえば、修学旅行に行く前日に咲桜が「わ〜、明日楽しみすぎて眠れない〜」と部屋が隣同士なのにメールを送ってきたが、その気持ちが今はわかる。いつもより早く目覚めているのが、その証拠だ。
時計を見る。約束の時間まで、まだある。
とりあえず、朝食を済ませるべく廊下へ出る。
日本へ来て見なかった日は一度もない、木製の扉を開き、廊下へ出る。
「──ん」
「──あ」
扉を開けば、咲桜と目が合う。
これが、いつも通りの光景。
日本へ来て、咲桜の家に居候させてもらってからというもの、面白いことに咲桜と朝、目が合わなかった日が無い。
何も打ち合わせなどしていないのだが、朝起きて扉を開ければ、咲桜も同じ瞬間に扉を開いている。
いつも通りのこの光景が、今日はとても幸運のように感じた。
「おはよう、咲桜。もしかして咲桜も──?」
「おはよ、ベラ。うん、楽しみで昨日寝れなくて…。あ、でも凄く気分が良いよ!今日いっぱい楽しめそう!」
どうやら、咲桜も同じ気持ちだったようだ。
その事に胸を踊らせながら、二人でリビングへ降りていった。
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リビングでも、いつも通りの光景が広がっている。
健蔵さんは、コーヒーを片手に新聞を広げ、美桜子さんは朝食の準備を終えて、テレビでニュースを見ている。
俺たちは食卓を囲み、今日も変わらず朝食を楽しむ。
と、美桜子さんが不意に口を開いた。
「そういえば、今日二人出掛けるんでしょ?イヴだから人多いけど、怪しい人には気をつけてね」
「え?僕聞いてないよ?折角今日仕事有給とったのに…」
美桜子さんの発言に健蔵さんが肩を落とす。
そう、今日は咲桜の提案で、『ハカタ』という場所へ行くらしい。予定だと十七時くらいに帰宅するつもりだ。
…というか、初めて聞く単語が出てきたのだが。
「イヴ?ってなんですか?」
食事の手を止め、右手を上げて質問する。
今日はクリスマスと聞いたが、一体どういう事だろうか?人によって呼び名が違うとかか?
その質問に対し、美桜子さんはクスッと笑うと、
「今日はクリスマス・イヴよ。クリスマスは明日。まぁでも、今日が一番盛り上がる日よ」
なるほど、そういうことか。行飛がずっと『クリスマス』と言っていたから、勘違いしていたようだ。
それから朝食を済ませ、俺と咲桜は歯を磨く。
シャコシャコという音が反響する。
「ひょうっへはははいいふへお、うぇああおほいひふぁいほ?(※今日って博多行くけど、ベラはどこ行きたいの?)」
「はいあひおはっへはあはへへ(※歯磨き終わってから言え)」
と、そんな会話(?)をしていると、廊下から声が。
「サクー、イュタベラくーん、何時に出るんだっけー?」
美桜子さんの声だ。
で、何時からって──
「えっほー、はひひふあいー…んんーーーっ!!(※えっとー、八時くらいー…んんーーーっ!!)」
時計を見れば、現在の時刻は七時五十分。
「えあ、いほああいほ!(※ベラ、急がないと!)」
「ああっへう(※分かってる)」
急いで歯を磨き、自室へ戻って着替え、予め準備していたバッグを肩に掛ける。
部屋を出るとまた、咲桜と目が合い、急いで階段を降りて──
「「行ってきます!」」
今日は、良い一日にしよう。