第75話 数少ない理解者
その後兄さんとヘレナさん(ついでに行飛)は、買い物を済ませた。
そして直後、クイック・サモンの効果が切れ、兄さん達はカリステアへ帰って行った。
その光景を見ていた行飛は、まぁ、当然の如く──
「イュタベラ、説明してもらうばい?」
「はぃ…」
まぁ、ここまで見られたのだ。気づかない方がおかしい。
俺が異世界人である事を知っているのは、今のところは咲桜、健蔵さん、美桜子さんの三人だけ。そしてここに、行飛が加わる。
俺は行飛に、俺の身内のことやここへ来た経緯、咲桜の家で居候させてもらっていることなど、なるべく分かるように説明した。
誰にも聞こえないように、場所はショッピングモールから誰もいない公園、その中のベンチへと移している。
そして、一通り要旨のみを話し終える。隣に座る行飛は、何やら考え込む様に右手を顎に添え、俯く。
恐らくは、今までの俺の行動を振り返っているのだろう。
そうして行飛が、記憶を辿って、辿って、辿り終え、顔を上げる。
そして行飛は、こちらへ顔を向け、一言。
「イュタベラ、大変やったんやなぁ」
「憐れむな憐れむな。俺は日本もカリステアも気に入ってるから」
憐れみの目で俺を見つめる行飛に向け、俺はそう断言する。
あぁ、確かに、最初に日本へ来た時は大変だった。
何が起こるか分からない、未知の世界。カリステアの常識が通用せず、はたまた生物が生存できる環境なのかかどうかさえ怪しかった。
ただ、今となっては、ここに来て良かったと、胸を張って言える。
ここには魔法がない代わりに、科学という未知の力が存在している。
カリステアは魔法によって発展した土地だが、日本、いや、地球は、科学によって発展した土地だ。
何で発展するかによって、こうまで世界観が違うというのは、とても興味深い。
それに、ここには咲桜やその家族がいる。行飛もいる。真也もいる。その他にも、クラスメイトが、先生たちが、俺に関わった沢山の人がいる。
一年も経っていないのに、こんなにも大事な人がいる。それが、どれだけ嬉しい事か。幸せな事か。
あと約四ヶ月。それだけの時間しか残されていないかと思うと、途端に寂しさが押し寄せる。
だが、問題ない。カリステアで頑張れば良いのだ。ミロットの報告も、嘘ではない。
だとしたら、こんな寂しさなんて、ほんの一瞬の感情に過ぎない。
その時その時の時間を楽しむだけだ。
「よし、じゃあ用も終わったから、帰るか」
自分の中でそう結論づけ、行飛と共に帰る。
そして、帰路の分かれ道。
「んじゃ俺こっちやけん、また」
「じゃあな」
互いに手を振り、自宅へと向かう。が、直後。
「ちょっと早いけど、メリークリスマス!咲桜さんとせいぜいイチャイチャしとけ!」
「…っ!うるさい!余計なお世話だ!」
全く、気の良い友人を持ったものだ。